「まりや、頑張ってるな……」
読み終えた雑誌にそっとハサミを入れる。もう、これも一つの習慣だ。
いつものようにスクラップした記事をファイルに閉じる。
結構溜まったかな。
僕だけのまりやのアルバム。
自分でも結構女々しい行為をしいてる自覚はある。
でも、変な話だけど、僕は自分のそういう男らしからぬ部分が実はあまり嫌いではないのかもしれない。
貴子さんに話したら、変に癖になってしまったのではないかって笑ってた。
もう、あれから随分年月が経ってしまった。あんな事があったなんて、今でも信じられない。
何年も前なのに昨日の事のように思い出せる。あっという間、だったのだろうか……
いや、そんな事はない。
まりやのいない日々は僕にとって、とてもとても長く感じられる。
ずっと一緒にいた人が、傍にいない。
痛いほどまりやの大事さを思い知らされる日々。
アルバムの表紙をめくる。
記念すべき第一ページは、切り抜きではなく写真。
思い出の地、恵泉女学院。その卒業式の後に皆で撮った写真。
「懐かしいな……卒業式」
この写真を撮ってすぐに、まりやはアメリカへと飛び立った。
僕はちゃんと笑顔で送り出すことができた、はずだ。
ゆかりちゃんなんて、ずっと泣いていたっけ。
そういえば、あの時の自分の言葉……
「ねぇ、ゆかりちゃん……あの時が6話なら、今は一体何話なのかな?」

私はその光景を目の当たりにし、ドアの前で凍り付いてしまった。
抱えていた書類が音もなく床に散乱していく。
信じられない。
この人はいったい何をしているのだろう。
僅かに開いたドアから伺える瑞穂さんの横顔は、うっすらと紅潮している。
荒い息遣いがこちらまで伝わってくるような気がして、私は両手で頬を覆った。
「瑞穂さん、何を……」
いけない。見てはいけない。
早くこの場を立ち去らなければ。
『……っく……』
ドクンッ
心臓が跳ねた。体が、瑞穂さんの声に反応してしまった。
だめ、早く……ここから離れないと……。
気持ちとは裏腹に足は一向に動いてはくれない。
ちゅくっ
「ふっ……んんっ」
私は何をしているのだろう。
「ふっ……っくぅ……やだ、濡れてる……」
自分の敬愛する人の秘め事を覗き見て。
「だめっ……熱い……」
あげく、会社でスカートの中に手を入れて。
「は……あぁ……だめぇ、声……瑞穂さんに……」
私は何て醜い――

『……まり、や……まりや……』
「……っく……」
分かっている。大丈夫、ちゃんと分かっている。
瑞穂さんは5年前のあの日から、ずっとまりやさんだけ追い続けている。
そんなの事は、分かりきった事。
瑞穂さんはまりやさんを想ってしている。
ドアを挟んでの二人の距離は実際よりも遥かに遠く、
遠い遠い手の届かないところにいる人を想って、私は指をを奔らす。
瑞穂さんがそうするように。
「やだ……やだ……やだ……」
何という事をしているのだろう。
やはり私は厳島の醜い血をひいた人間なんだ。
あの方の傍になんておいてもらうべきではなかった。
悔しくて、悔しくて、
それでも止まらないこの手を、感じてしまっている自分を、
心から呪った。
『うぁ、あぁ……まりや、まりやぁ』
瑞穂さんの声が頻繁に聞かれるようになってきた。
もうすぐ、達するのだろうか。
まりやさんの中に注ぐ想像でもしているのだろうか。
「ふぁあ、……んくっ……ん……んっ…ふぅっ」
どうしてだろう、心が痛めつけられるほど、体が快楽に溺れてしまう。
もうすぐ……私も……
『まり、やぁ……うあ、うぁぁああ』

その声は私の全てを凍り付けにした。
激しく鳴り響いていた心臓も。
熱く自己主張していたソコも。
体を覆っていた快楽の波も、一斉に引いてしまった。
だって、私には、
瑞穂さんが泣いているようにしか聞こえなかったから。

なぜだろう。
本当に莫迦だ。どうしようもなく莫迦だ。
次の瞬間、私は走り出していた。
瑞穂さんの、元へ。

「……うわっ、し、室長!?」
達したまま放心していたのだろうか、
パンツも履かずに慌てふためく瑞穂さんの元へ一直線に向かう。
瑞穂さんの顔に涙は浮かんではいなかった。
でも、この人は泣いていると思った。
叩かれるとでも思ったのだろうか、瑞穂さんはビクッっと体を硬直させた。
「あの、ごめんなさい、そのこれはっ――」
私は、瑞穂さんをただ力いっぱいに抱きしめた。
これでもかってくらい、きつく、きつく瑞穂さんの体を抱きしめた。
「貴子……さん?」
何も言わず、ただ、ただ、力いっぱい瑞穂さんを抱きしめ続ける。
すぐに瑞穂さんの体から力が抜けていくのが感じ取れた。
胸に瑞穂さんの熱い吐息が当たる。
それでも、もういやらしい高ぶりは感じられなかった。
「お泣きなさい、瑞穂さん。ただし、今日だけ特別ですわ」
「貴子、さん……。う、うわ……ふぁぁぁあああああん」
私は……一体、何をしているのだろう。
欺瞞に満ちた私を非難する声は、満たされていく心の中に溶けていった。
最低、本当。

「ごめんなさい、貴子さん」
しばらくして、瑞穂さんは私の胸から顔を離した。
気まずい時間が流れる。
「いけません、私ったら。部屋の外に大事な書類を撒き散らしたままでしたわ」
とりあえず逃げ出す選択をしたものの、すぐにそれは阻まれてしまった。
「貴子さん、待って」
「きゃっ」
やや強く掴まれた腕に、今度は少しだけドキドキしてしまった。
それだけで、心が痛い。私が、私を、非難する。
「えと、ごめんなさい。その、さっき抱きしめてもらった時にスーツを汚してしまったから、
 そのまま外に出るのはまずいのではないかと……思って」
「そんな、大丈夫ですわ。瑞穂さんの涙です」
「でも、その、涙だけじゃなくて、その……」
「え?」
ぬるっ
スーツに触れた手に何とも言えない感触。
ここここ、これって、み、みみみみ瑞穂さんのっ、のっ……
「きゅ…」
「きゅ?」
「きゅぅぅうう〜〜」
「うわわわわ、貴子さん、貴子さんしっかり〜〜」
薄れ行く意識の中で、瑞穂さんの声が遠くでこだましていた。

目を覚ますと知らない部屋で寝かされていた。
これでもか、というくらい天井が高い。まるで実家の私の部屋のようだ。
一人暮らしをするうちに私の感覚があの生活から離れていった証拠かもしれない、この高い天井に大きな違和を感じる。
話す言葉も段々と変わって来た気がする。私はもうお嬢様ではないのだろうか。
それが喜ばしく感じるのは、お嬢様が嫌いなのではなく、厳島が嫌いなだけという事は無論言うまでもない。
上半身をベッドから起こすと、額の濡れタオルが転がった。
体がだるくて重い、さて、ここはどこで、私はなぜここで眠っていたのでしょう。
「ん……」
「あら? …………まぁ」
私の傍らでは瑞穂さんがベッドに寄り添うように眠っていた。
その手はしっかりと私の右手を握っている。
目が覚めるまで介抱しているつもりだったのだろうか。
あれだけ、多忙な毎日を送っているというのに……
ご自身も憔悴しきっていたというのに……
どうしてこう、人のために無理をしようとするのでしょう。
本当に、この方は……
頬が緩むのが分かる。これで嬉しくなかったなんて言ったら、嘘に決まってる。
あ、でも……。
ちょっとだけ、苦笑してしまう。
勝手に女性を泊めて、添い寝をなさるだなんて、凄いお方です、瑞穂さんは。
やはり瑞穂さんは、ご自分が男だという自覚が少々足りないような気がします。
それとも、私が恵泉時代からの知り合いだからでしょうか。
本当、困ったお方。

空いた手を瑞穂さんの頭の上に添える。
その髪をすくと、憎たらしいくらいさらりと流れた。
「ん……」
素敵な笑顔、まるで子供のよう。
実は結構甘えん坊さんなのかもしれませんわね。
さらさら、さらさら……
優しく、子供の頭を撫でるように、髪をすく。
知っている。
ずっと近くで見てきたから、知っている。
あれだけ完璧な人格と能力を備えていても、この人はまだまだ若い。
その双肩にかかる負担は並のものではないだろう。
一人で耐えていくのはきっと、つらいはずなんだ。
さらさら、さらさら、さらさら……
「ぁ……母、さま……」
「瑞穂……さん……」
自分の中に暖かい感情が流れ込んでくるのを感じた。
「ふふふ、私の手、お母様みたいですか?」
何だかホッとしてしまった。
私だって、この人の助けにはなれる。
勿論、仕事においてのそれは私の努め。
瑞穂さんの負担が多いのは私が不甲斐ないためとも言える。
それでも、他の誰よりも力になれると自負できる。
そして、瑞穂さんにこんな表情をさせられる自分に気付き、少しだけ誇らしく思えた。

「たまには、甘えさせてあげましてよ。私、小煩いだけの右腕ではありませんわ」
私たち、ちゃんとパートナーになれますよね?
私は恋人にこそなれなかったけど、他の部分においては誰にも譲る気はない。
誰にも…………。
私にはこの人を支える事ができる。
それさえ分かれば、大丈夫。
この人の傍にいられる。
私は諦めの悪い一部の感情を全てシャットアウトすると、最後にもう一度、瑞穂さんの頭をくしゃりと撫でた。
「分をわきまえる、という事くらい、私にだって分かりますわ」


朝が来るまで、まだ充分に時間はありそうだ。私はもう一度眠りにつくことにした。
繋いだ手は何だかこそばゆかったけど、とりあえず、全て忘れてぐっすりと眠るのにこれだけ最高の機会はないと感じた。
朝になって目が覚めたら、自分の不義の感情を全て捨てられると思えた。
だから今だけこうして、甘んじてこの温もりに身を沈めるのは、罪な事ではありませんよね?マリア様……

最初に目に飛び込んできたのは、昨晩の高い天井――を背にした瑞穂さんの顔。
「おはようございます、貴子さん。よく眠れましたか?」
「おはようございます、瑞穂さん。っと、あの、ここは……瑞穂さんのご自宅、ですよね?」
とりあえず、状況を把握したい。
「えっと、ですね……昨日の事は覚えていますか? 貴子さん、あのまま失神してしまって。
 それで、貴子さん一人暮らしだし、心配だったから、勝手ですが僕の家に搬送させてもらいました。
 一応、お医者様にも診ていただいたのですが、体の方は特に問題ないとの事でした。
 あぁ、でも社内でおんぶしているところを何人かに見られてしまいました。たはは……」
「失神ですか……私……あ。……はわわわわ」
昨日の出来事がフラッシュバックする、同時に昨晩の事も……
「お、思い出しましたか? その、昨日の事」
体中の水分が沸騰しそうな感覚。
いくら、自分の感情に折り合いを付けたと言っても。
あれが、恥ずかしくないだなんて、そんな人間がいるはずがない。
「ひゃ、ひゃい。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「そ、そんなっ、恥ずかしいところを見せたのは僕のほう……で…はう……」
瑞穂さんったら、それでは完全に自爆ですわ。
二人ともこれ以上にないってくらい顔を真っ赤にしてしまった。
私はすーっと深く息を吸い込む。
………。
よしっ、大丈夫。

「瑞穂さん」
「あ、はい。何でしょう、貴子さん」
大丈夫、もうなんともない。
「昨日の事は、私忘れることにしますわ。ですから、瑞穂さんもそうなさってくださらない?」
「そ、それは僕としても、助かります……けど。
 何せ、皆に知られれば、変態社長の汚名を欲しいがままにするような……ですし」
ばつが悪そうにうつむく。何かまだひっかかる事のあろうような、そんな表情。
「このまま出社するわけにもいきませんので、私は一旦自宅に戻らせて頂きます。
 それに……ふふ、おんぶの次の日に一緒に出社、おまけに昨日と同じ服装……だなんて言ったら、どうなる事か分かりませんもの」
「うぐっ、ごめんなさい。僕、動転してて……ちょっと冷静な判断を欠いたかもしれません」
「まぁ、瑞穂さんったら。そんなことないですわ。
 でも……最近気付いたのですが、瑞穂さんて意外と弱点の多い方ですわね」
「はは……まりやとかにもよく言われてました」
ちくりっ。
「そうですか、私も瑞穂さんの片腕として信頼されてきた。と受け取っておきますわ。
 それでは、失礼させて頂きます」
痛みは少しだけ。この程度ならすぐに消えるし、すぐに気にもならなくなるだろう。
瑞穂さんの私邸は意外と私の家にも近かったので、送って下さるという申し出をお断りし、徒歩で帰宅することにした。
瑞穂さんは玄関まで見送りに出てきて下さった。
「それでは、本当にご迷惑をおかけしました、瑞穂さん」
「いえ、僕の方こそ……。昨日はありがとうございました。とても軽くなった気がします」
「…………とんでもございませんわ。それでは」
一礼し、瑞穂さんに背を向ける。
昨日の事について、お礼を言われるのは矢張りつらかった。
自分を許せなくなるから。

「貴子さんっ」
後ろから呼び止められた。
私は返事もせず、振り向きもせず、ただ立ち止まった。
「ごめんなさい、変な事をいいます」
「……なんでしょう」
やっとの事でそれだけ搾り出した。
「僕ね、考えたんですよ。あなたの寝顔を見ながら、ずっと考えていました。
 どうして貴子さんは僕が泣きたかったと分かったのかなって。僕自身気付いていなかったのに」
「…………」
やめてください、何をなさるおつもりですか。
私は昨日、全て決心をしたのです。お願いだから、掘り返さないで。
「僕、こう思ったんですよ。ひょっとしたら、貴子さんも同じなんじゃないかなって。
 だから、分かったんじゃないかなって……」
「どうして、そんな事を……。御戯れがすぎますよ、社長」
私はまた、歩き出した。
「だって、貴子さん。僕にはあの時駆け寄ってきたあなたが……やっぱり泣いているように見えたんです。
 だから、きっと貴子さんも、僕と同じなんです」
「…………」
いつだってそうだ。この人を相手にすると、決して敵わない。
一旦対峙してしまえば、まりやさんよりもやっかいな相手。
とんでもない人に恋をしていたのだな、私は。
白々しく過去形で反芻した。

できあがったばかりの決心はあっというまにボロボロにされてしまった。一日も持たなかった。
私は弱い女だ。
このまま振り返って、あなたの胸に飛び込んでいいのでしょうか。

「それで、もしよかったら僕に話してみてはくれませんか? 力になれる自信はあまりないですけど、
 それでも、僕なんかでも話してみれば楽になるかもしれませんよ」



はい、ゲームオーバー。
惜しかったですわね、瑞穂さん。もう一息でしたのに。
いえ、そうじゃない、惜しかったのは私。
残念ね、貴子。ここまでのようですよ。
一瞬期待できたのに。そうね、あの人の弱点の一つだわ、女心に意外と鈍いところ。
ボロボロにされた決心にトドメをさすことはできなかったみたい。
ふふ、なんて残酷な方。
でも、大丈夫。これなら決心はちゃんと修復される。
私は振り返り、別れを告げる。

「大丈夫ですわ、瑞穂さん。私もね、昨日一晩寝たら全部吹っ切れましたから。
 今はとても気持ちが軽いんです。だから今日からは、また一緒に精一杯働きましょう」

最高の笑顔でそう告げた。
もう瑞穂さんにこの笑顔が泣いているように見えることは、ないだろう。
私は一つの恋に正式にさよならを告げた。


あの人は、私の最高のパートナー。
吹っ切れた私と瑞穂さん。
二人の前に立ちはだかるものなんていやしない。
例えそれが厳島グループだろうと、私たちの敵ではない。

そしてまた1年が過ぎた。

「社長、コーヒー買ってきましたわ」
「ありがとう、貴子さん」
瑞穂さんの声は自然と弾む。
今更理由なんて考えるまでもない。
「それにしても……たかが新進デザイナー、社長自らお出迎えなさらなくても、よろしいんじゃないですか?」
「室長こそ……わざわざお出迎えに付き合う必要もないでしょう、それこそ」
「あら、だって何をされるか分かりませんもの、お一人で迎えに行かれては心配です」

「That has nothing to do with you!」
「Any complaints?」
「Who do you think you are?」
帰国一言目から、本当に何も変わってない。
懐かしいやりとりは、ただ英語になっただけだ。
「ちょ、二人とも……いきなり喧嘩を始めるのはやめてよ」
おろおろする瑞穂さん。変わったと言えば私がこの姿を日常的に見るようになった事だろうか。
「んでさー、何でこんな所にこのヒステリー女がいるわけ?
 感動の再会が台無しじゃない」
「私はあなたのライバルですから……それに、今日は仕事で来ているのです。私も、社長も」
「はっ……言ってくれちゃって」
そうだ、何たってライバルが帰ってくるのだ、おちおち会社で仕事なんてしてはいられない。
「申し送れました。株式会社鏑木テクスタイルプランニング・社長室長の厳島貴子と申します。
 こちらが社長の鏑木瑞穂です。……以後よろしくお願いしますわ」

「こりゃ……ご丁寧なあいさつをどーも。しっかし、まさか貴子が瑞穂ちゃんの手下になってるとはね……」
手下……ですか。ふふ、まぁ、そう言われても仕方ありませんわね。
「私、実家に愛想をつかしましたの……瑞穂さんのおかげで今は楽しく仕事をさせていただいてますわ」
「どっちかって言うと、僕の方がこき使われてますけどね」
「まぁ、社長……それはひどいですわ」
今のはフォローとしてありがたく頂戴しておきますわ、瑞穂さん。
「あたしも、一応自己紹介しとこうか? 自称デザイナーの御門まりやです」
「自称、なんだ」
「ん〜、まだまだひよっこだしね」
らしくない、謙虚な言葉ですわね。アメリカで大成功とも言える実績を残しての凱旋帰国だと言うのに。
「でも、凄い活躍してるみたいじゃない、最近はファイルがすぐに足りなくなっちゃって……
 あ、いや、えっと……」
「ん〜〜? なぁにぃ、瑞穂ちゃん、何を隠してるのかなぁ? でもまぁ、そうだね、何せ頑張ったからね。
 約束、守らないといけないし」
「そっか……お帰り、まりや」
「…………ただいま」
ゆっくりと近づいていく二人の顔の間に手を滑り込ませる。
「ラブシーンはどうぞ仕事が終わってから、ご自宅で存分になさると宜しいですわ、お二人とも。
 社長も、きちんと公私の区別はつけて下さらないと、困ります」
「う……面目ないです」
「なーによ、貴子、あんた相変わらず固いわねー」
「恐れ入ります、これも性分ですので。では、社長、行きましょう。
 まりやさん、お荷物、お持ちしますわ」
「はい。すみません貴子さん。それでは行きましょうか、まりやさん」


そう、ここだけは譲れない。
株式会社鏑木テクスタイルプランニング社長、鏑木瑞穂は、
同・社長室長、厳島貴子の最高のパートナー。
これだけは誰にも譲る気はありません。
「例え恋人であろうと、公私の区別はしっかりとつけて頂きますので、お覚悟の程をお願いしますわ」
「うえぇ〜〜、ちょっと瑞穂ちゃん、貴子の奴、なんかパワーアップしてない?」
「うぅ……そうかも」
「まぁ、でも私がそういうの嫌いな事知ってるでしょ。難しい相談だなぁ」
不敵な笑みを返すまりやさん。
そんな事は百も承知です。
だからこそ、あなたは私の生涯のライバルなのですわ。

さぁ、戦いの日々がまた始まる。


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