学院際の準備期間のお話です。でも学院祭とはほとんど関係ありません。
全18レス。
何か適当にやってたら無駄に長くなったような気がします。
暇だから読んでやってもいいかな〜なんて方がいましたら読んでみてください。
今回は何となくタイトルを付けてみました。適当です。Y談なんていってるくせに
エロはありません。萌えもありません。悪しからず。



 僕は奏ちゃんや紫苑さんと一緒に食堂でご飯を食べていた。
 もうすぐ学院祭で、奏ちゃんは演劇部の、僕と紫苑さんは生徒会主催の劇に出演するので
そのことについての意気込みとか心構えとか、そういうものについて話が弾んでいた。
 そこにたまたま貴子さんが通りかかったので、一緒のテーブルに誘う事にした。
「あ、貴子さん」
「あら、お姉さま。私に何かご用ですか?」
「はい、もしよろしければお昼をご一緒しませんか?」
「でも……よろしいのですか? 私などがご一緒してしまって」
「もちろんです、紫苑さんも奏ちゃんもいいですよね?」
「ええ、私は構いませんわ」
「は、はい。奏もなのですよ〜」
「だそうです。どうぞ、こちらに」
 そう言って貴子さんには僕の隣に座ってもらった。
 この前の十月革命で貴子さんと奏ちゃんや紫苑さんの間がギクシャクしてしまっているのは
僕も承知のうえだ。それでもやっぱり仲良くしてもらいたかったので、ちょうどいい機会だと
半ば無理やりにでもこのような席を設ける事にした。
 勿論、貴子さんも生徒会主催の劇には出演するので、そのあたりの話を交えてわだかまりを
なくしてくれればいいと思っていたけど、その後の紫苑さんの発言はそれまでの会話とまったく
かけ離れたものだった。
「そういえば貴子さん、この学院にも七不思議と言うものがあるのはご存知かしら?」
「な、ななな、七不思議ですか?」
「ええ。と言っても私はひとつしか知りませんけど。茶道部の子に聞いた話なのですが」
「あ、奏もその話は聞いたことがあるのですよ。茶道部の人に聞いたと言う事は、修身室の
座敷わらしの話なのですか〜?」
「ええ。修身室の鍵を開けて中に入ったら、誰も居ないはずの部屋に誰かいて、おかしいなと思って
もう一度見てみるとそこには誰も居なかった、とか。お茶を点てている時に誰も座っていない場所に
気配を感じた、とか。貴子さん、ご存知ありませんか?」
「そそ、そそそ、そんな事があるはずが無いではありませんか紫苑さま」
「まあ、座敷わらしは住んでいる家に繁栄をもたらすと言われていますので、茶道部の方々などは
お茶の一杯でもご馳走して差し上げたいとおっしゃっていましたが」
「そそそ、それが、何だと?」
「ええ。そのような風聞が流れているのは生徒会長の立場からするとあまりよろしくはないかと
思いまして。もし知らないのであれば貴子さんのお耳に入れて差し上げた方がよろしいかと思い
ましたもので」
 なんだか紫苑さん、ちょっと意地悪だなぁ。一体どうしたんだろうと思いつつも、僕自身、七不思議の
話に少し興味を持ったので、その場はそのまま話の先を促す事にした。
「紫苑さんは七不思議のほかの話はご存じないんですか?」
「お、お姉さま?!」
 貴子さんが驚いて僕の方を見る。貴子さんが恐い話が苦手だろうと言う事はうすうす感づいては
いたけど、やっぱり七不思議の誘惑には勝てなかった。ごめんね、貴子さん。
「ええ。私は知りませんけれど、でも奏ちゃんなら知っているとおもいます。ね、奏ちゃん?」
「はいなのです〜。奏もクラスの子や演劇部の人たちに聞いた話なのですけど、他の七不思議も
聞いていますのですよ〜」
「うふふっ。では、お話していただけるかしら?」
「もちろんなのですよ〜」
 その時、僕の隣でガタンと椅子の音がした。見ると、貴子さんの顔色はこころもち悪いようにも
見える。さすがにこれ以上は貴子さんも辛いかと思って助け舟を出そうとしたけど、それは紫苑
さんに遮られてしまった。
「あら、貴子さん。どうかなさいましたか?」
「あ、い、いえ、その、そう、喉、喉が渇きましたので、何かお飲み物を買って来ようかと」
「まあ、それでしたら私の紅茶を差し上げます。でも申し訳ありませんが少し口をつけてしまって
いるので、それがお嫌ではなければ、ですけれど」
 こんな言い方をされると、貴子さんの性格では多分断らない。
「わ、わかりましたわ。それではありがたく頂きますわ」
 やっぱり。

「それでは奏ちゃん、お話の続きをお願いしますね」
「はいなのです。ええと、まず最初に『第二音楽室の怪』を……」
「ヒッ」
「……? 会長さん、どうかなさったのですか〜?」
「い、いえ、続けてください」
「『第二音楽室の怪』はですね〜、詳しい話は省略しますけど、夜、誰も居ないはずの第二音楽室
から聞いたことの無いピアノの曲が聞こえてくる、と言うものなのですよ〜」
「あら、それはこの前、奏ちゃんが調べていたあの?」
「そうなのですよ。あれが七不思議のひとつだったのですよ」
 それは知らなかった。でも、あれももう詩織さんが昇天したから今後ピアノの音が鳴る事は無い。
 ふと顔を上げると、奏ちゃんも詩織さんの事を考えているのか、少ししんみりしていた。詳細を
省略したのも詩織さんの事を思ってあまり人に話してもいい内容ではないと判断したからだろう。
やっぱり奏ちゃんは優しい子だ。
 そして、少し間を置くと次の七不思議を話し始めた。
「次は『トイレの歌姫』と呼ばれているものです。昔、聖歌部に所属していた女の子がいました。
その子には好きな先輩がいて告白したのですが、断られてしまったのです。そのショックでその子は
1ヶ月間引き篭もっていたそうなのですけれど、どうしてもその先輩のことを忘れられず、どうしたら
自分の事を見てもらえるか考えた末に、死んで見せれば自分のことも心に留めてもらえると思い、
東階段寄りのトイレで自殺をしてしまったそうなのです。その時、その先輩は既に家の都合で転校
した後で、その子が死んだ事を知る事は無かったのです。でも、先輩が転向してしまったことを
知らない聖歌部の子は、今でも先輩の気を引くためにそのトイレで歌い続けているそうなのです。
実際にトイレから歌が聞こえてきて、中を確認したけれど誰も居なかった、と言う体験をした人も
何人か居るそうです。そして、その歌を聞いた人は1ヶ月以内に告白していい返事をもらわないと、
彼女にあの世まで連れて行かれるそうなのです……」
 何か、いきなりすごい話が出てきたな……。ふと、隣を見てみると、貴子さんがカチカチになって
いたけど、ここは我慢してもらおう、悪いけど。
「それでは、次の話に行くのです。昔、補修を受けて帰りが遅くなった生徒が、このままでは門限に
間に合わないと急いで帰ろうとしていました。どんな理由でも門限を破るとひどく叱られてしまう
その子は、少しでも早く帰ろうと東階段を駆け下りていた時に足を滑らせて階段から落ちて、首の
骨を折って死んでしまったそうなのです。それ以来、東階段の踊り場では放課後になると首だけの
幽霊が現れるそうです。どうして首だけかと言うと、何でも首の骨を折った事で霊的に頭と身体が
切り離されてしまったからと言われています。そして、この幽霊を見たら自分の身体を抱きしめないと、
呪いで首から下の霊体を持っていかれて、全身不随になってしまうそうです。これが『放課後の生首
少女』と呼ばれる話です。これと対になる話で、『放課後の首吊り少女』と言う話があります。さっきの
切り離された霊体の首から下が踊り場の天井からぶら下がっていると言うのです。この首と身体は
繋がっているわけではないようで、別の時間、別の場所に現れるそうです。そして、この幽霊を見たら、
頭を抱えないと呪いで首から上の霊体を持っていかれて、植物人間になってしまうそうです。これが
『放課後の首吊り少女』と呼ばれている話です……」
 何か聞き入ってしまった……。前も思ったけど、奏ちゃんってこういう話するのが上手だ。周りを
見ると、貴子さんは相変わらず固まっていたけど、紫苑さんも奏ちゃんの話に聞き入っていた。

 奏ちゃんは一息つくと、また話を続けた。
「次は『天国に一番近い場所』なのです。これはあまり詳しい事が話されていないのですけれど、
とある条件が整った時、本来なら4階までしかないはずの校舎に5階に昇る階段が現れる、という
ものです。その階段を見た人はどういうわけか、その階段に引き寄せられて無いはずの5階に
昇ってしまうそうです。一度5階に立ち入ってしまうと、階段を昇っても降りても5階にしか行けず、
永遠にそこから出る事が出来ないそうです。この話はお母さんやお姉さんが恵泉の卒業生だった
子から聞いた話で、かなり昔から伝わっているそうです」
 確かに何処かで聞いたような話ではあるけど……母様が生きていれば僕もこんな話を聞くことが
出来たのだろうか。
「最後の不思議はこれまでの話しとは少し毛色が違うのです。これまでの話は放課後とか夜に
起きる現象だったのですが、これはなんと良く晴れた昼、それも授業中に起こる不思議なのです。
授業中に何気なく外を眺めていると天使さんが飛んでいるのを見た、と言う子がいるのです。どの
ような時に見られるのかは分かっていませんが、目撃した子の話によると、とても可愛らしい天使
さんなのだそうで、みんなは彼女の事を愛着を込めて『エンジェルたん』と呼んでいるそうです。
エンジェルたんの笑顔を見た人はとても幸せな気持ちになれるそうなのです。……奏が知っている
お話はこれで全部なのですよ〜」
 奏ちゃんが話し終わると、回りから盛大な拍手と歓声が鳴り響いた。いつの間にこんなに人が
集まっていたんだろう?
 集まっていた生徒達は奏ちゃんを賞賛するとそれぞれの場所に帰っていき、テーブルには始めの
ように、僕たち4人だけが残された。貴子さんはやっぱり固まっていた。
「でも、何でこんな時期に七不思議なんて話が出てきたんでしょう? 奏ちゃんは何か知ってる?」
 自分で言うのもなんだけど、僕のこの疑問も尤もだと思う。前に第二音楽室の話が出た時は、
まだ残暑も厳しい9月だった。でも今はもう11月になる。
「それが、『第二音楽室の怪』と『天国に一番近い場所』以外は実際にその不思議に遭遇した、
と言う人が結構いるそうなのですよ」
「そ、そんなのは出鱈目に決まっています! ば、馬鹿馬鹿しい! 一体誰ですか、このような噂を
広めているのは!」
 貴子さんは動揺を隠そうとして声を張り上げた。でも僕にもわかるくらいだからとても上手くいって
いるとは思えない。ていうか、さっきの人の集まりようからして、この噂を一番広めたのは奏ちゃん
って事になるんだろうなあ……。
「しかし、実際に目撃者が出ているのです。ならば、それが見間違いだったと証明すればよろしいの
ではないですか? 幸い、ここにはエルダーと生徒会長がいるのです。その二人が揃ってこれが只の
噂であった、と言えばこんな噂もすぐに収束するでしょう。ちょうど明日、生徒会主催の劇の練習が
ありますから、それが終わってから調べてみてはいかがです?」
「なっ、なんで私がそんな事を……」
「でも、そうでもしないと噂は収束しないと思いますよ?人の噂も七十五日と言いますけれど、そう
すると年が明けてもこの噂が囁かれ続ける、と言うことになりますね。それに、今ここで噂を収束
させておかなければ、真相を確かめようと夜中、校舎に忍び込む人も出てくるかもしれませんよ。
ねぇ、み・ず・ほ・さん♪」
 うっ……そんな目で見ないでください紫苑さん……。
「そ、それは……」
「ほら、瑞穂さんも調査には賛成と言ってますわ」
「ちょ、ちょっと紫苑さん……」
「賛成、ですわよね?」
「はい……」
「貴子さんも、よろしいですわね?」
「し、仕方ありませんわね……」
 こうして僕たちは、恵泉七不思議を調査する事になった。



翌日、練習終了後──。
「それではまりやさんや奏ちゃんたちは来られませんのね?」
「はい……もう懲りたと言ってました。「やるなら瑞穂ちゃん一人で勝手にやってくれ」だそうです。
そういうわけですので、貴子さんと二人で行ってこようかと思います」
「そうですか…………わかりました、私も同行いたします」
「し、紫苑さんがですか?」
「私とて昨年度のエルダーに選出された身、でも昨年は病気のためにエルダーらしい事は何一つ
出来ませんでした。そんな私がエルダーとして学院の妹達のために何かしたいというのは、別に
おかしな事ではないと思います。それに……」
「……それに?」
「いえ、何でもありません。とにかく、私も同行いたします。よろしいですよね?」
 そう言って紫苑さんはいつもの紫苑さんらしからぬ、捨てられた子犬のような眼で僕の事を見つ
めてきた。そんな眼で見つめらてドキドキしつつ、結局了承してしまった。
「あの、お、お姉さま? 最初はどこに向かうんですの?」
「第二音楽室に行こうかと思ってます」
「あ、あのピアノの音が聞こえてくると言う……」
「大丈夫ですよ。何も起こらないことを確認しに行くんですから」
「そそ、そうですよね。それでは、ま、参りましょう」
 そうして僕たちは調査に乗り出した。貴子さんはやはりと言うか、かなり緊張していた。動き方も
かなりぎこちなく、そのまま歩いていては転んで怪我でもしそうな雰囲気だったので、勝手な判断で
悪いとは思ったけど手を繋いで歩く事にした。
「お、お姉さま……?」
「こうすれば少しは安心できるでしょう?」
「は、はい……」
 暗がりでよくはわからないけど、まだ少し不安そうにしていたので手を握る強さを少し強くしたら
貴子さんも少し強く握り返してくれた。
 これから向かう第二音楽室に限ってはもう解決済みだから何か問題があると言う事も無いので
僕としてはまだ落ち着いていられる。それに成り行きでこうなったとはいえ、もし何かあったときは
貴子さんも紫苑さんも僕が守らなければならない。気を引き締めていこう。何せ『本物』が出る可能
性は十分にあるのだから。
 そうこうしているうちに第二音楽室の前に辿り着いた。当然のことながら、ピアノの音が聞こえて
くる事は無い。
「ほら、貴子さん。何にも聞こえないでしょう?」
 落ち着かせるため、優しく諭すように話しかける。
「は、はい。そうですわね……それでは、次はどこを調べに行きますの?」
「あら貴子さん、もう恐くなくなったんですか?」
 紫苑さんがからかうように言った。
「わ、私は別に恐がってなどおりません!」
「まあ、瑞穂さんに手を繋いでいただいたのが余程効いたんですのね……私もそうしていただこう
かしら」
「はぅ……」
「と、とにかく次にどこに行くかを決めましょう……と、その前に。座敷わらしとエンジェルたんなん
ですけれど、別に害がある話というわけではないので、後回し……というか、この際気にしなく
てもいいと思うんです。それで、一度4階に昇って5階が無い事を確かめた後に東階段のトイレと
踊り場を調べながら降りていく、と言うのはどうでしょうか?」
「私はお姉さまの言うとおりで構いません」
「ええ、私もそれで良いと思います」
 と言う事で、まず4階から屋上階に昇って屋上へ出る扉を確かめた。尤もこの話は階段を見たら
必ず5階に昇って帰れなくなり、その事を伝えられなくなるにも関わらず、その話が伝わっていると
言う矛盾があるので、最初からよくある類の怪談話だと思っていた。放っておいても問題は無い、
と思う。何かまりやがそこに迷い込んでいたような気もするがたぶん夢だろう。


 その後、東階段に向かい、4階のトイレから調べ始めた。その頃には貴子さんもかなり落ち着いて
いて、もう普通に会話が出来るようになっていた。
「何も聞こえてきませんね」
「そうですね」
「それでは次に行ってしまいましょう」
 そして4階から3階に降りてトイレの前に差し掛かったとき、それは聞こえてきた。
「〜〜♪〜〜〜♪〜♪〜〜♪」
「ヒッ」
 一見落ち着いて見えていた貴子さんだったけど、やっぱりかなり我慢していたようだ。小さく悲鳴を
上げて一瞬気を失いそうになったが、視界に紫苑さんを捉えたようで何とか持ち直したようだった。
しかし、まともな判断が出来るような状況ではなかったようで、「私は何も聞いていませんわ」と言って
ふらふらと階段の方に歩いていってしまった。
「瑞穂さん、私、トイレの中の方を見てきますわ」
「あっ、ちょっと、紫苑さん!」
 紫苑さんは厳しい顔でトイレの中に入っていってしまった。紫苑さんを追うか、それとも階段の方に
行ってしまった貴子さんを追うか。どちらを追うか迷っているうちに紫苑さんがトイレの中から出てきて
しまった。真っ青な顔をして。
「紫苑さん、大丈夫ですか?!」
「瑞穂さん……トイレの中、誰もいませんでした……。もし悪戯ならスピーカーの類があると思っていたの
ですけれど、それも……」
 まさかと思い自分でも中を確認しようと思ったが、今は貴子さんの事が先だと思い直す。
「今はとにかく貴子さんを……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 その時、空気を切り裂くような貴子さんの悲鳴が響いた。
「貴子さん!!」
 僕と紫苑さんは貴子さんの元に駆けつけるべく東階段に走ったが、そこで見たものは……首だった。
ただの首じゃない。暗い中、うすぼんやりと燐光を放っているそれは紛れも無く幽霊のそれだった。
 驚いている場合じゃない、早く貴子さんを探さなければ──。
 そう思い、貴子さんの姿を探すとすぐ見つかった。幽霊の首が生えている踊り場にいた。何とか自力で
階段を降りて逃げようとしていた。すぐに声をかけようとしたが、僕自身そこまでの余裕は無く、声を出す
ことは出来なかった。
 とにかく、貴子さんのところに向かおう。そう思って足を踏み出そうとしたら今度は背後でドサッ、と音が
した。振り返ると紫苑さんが倒れていた。
「紫苑さん!!」
 その時、食堂で奏ちゃんに聞いた話が脳裏をよぎった。
『この幽霊を見たら──呪いで首から下の霊体を持っていかれて、全身不随になってしまうそうです。
──呪いで首から上の霊体を持っていかれて、植物人間になってしまうそうです──』
 そんな莫迦な。しかし、現実に一子ちゃんや詩織さんのように幽霊は存在するのだ。彼女たちは
悪意の無い幽霊だが、今ここに現れた『放課後の生首少女』もそうとは限らない。信憑性の低い噂とは
いえ、その話を聞く限りでは悪意のある幽霊と言わざるを得ない。
 奏ちゃんは何と言っていたか。呪いにかからない方法があると言っていたが、昨日は奏ちゃんの語り
口が楽しくて内容に関しては話半分にしか聞いていなかった。
 僕は何て馬鹿なんだろう。『本物』が出る可能性があるとわかっていたはずなのに。わかったつもりに
なって軽く見ていた。
 でも今はそんな事を悔やんでいる場合ではない。なんとしてでも貴子さんを助け出さなければ……。
そう思った時、ふと気が付いた。貴子さんは紫苑さんのように倒れていなかった。何故? 貴子さんは
恐怖の所為か、自分の身体を抱きかかえるようにしていた。そうだ、身体を抱きしめる──それだ。
確かに奏ちゃんはそう言っていた。
 よし。これで貴子さんを救いに行く事が出来る──そう思ったとき。
 再び耳をつんざく悲鳴が聞こえ、そしてそれに続いてドサリと言う、何かが床の上に落ちた音が
聞こえてきた──。
 僕はどうしたらいい……。
 踊り場を見ると既に幽霊は居なくなっていた。とにかく、紫苑さんと貴子さんを外に連れ出さなければ。
そう思って、紫苑さんの身体を抱きかかえ、階段を降り貴子さんの元へ向かった……。
「あの〜、お姉さま?」
 紫苑さんを抱きかかえて階段を降りる僕の横から一子ちゃんが気まずそうに話しかけてきた。
……って一子ちゃん?!
 ふとひとつの考えに思い当たり、僕は気を取り直して一子ちゃんに聞いてみた。
「ひょっとしてさっきそこに生えてた頭は……」
「あ、はい、私です。あの〜、もしかして、驚かせてしまいましたか?」
 あははははは。何かさっきの覚悟が莫迦みたいだ。ていうか恥ずかしい。
「お姉さま? その〜、下にも気絶した方がいらっしゃるのですが……」
 貴子さんは天井に頭を突っ込んでぶら下がっていた一子ちゃんを見て気絶してしまったらしい。
「ええ。とりあえず二人とも寮に連れて行くから」
「一人で大丈夫ですか? まりやさんたちを呼んできましょうか?」
「いいえ、それには及びません……と言うか、この事はまりやたちには内緒にしておきたいから、私
一人でなんとかするわ。一子ちゃんも内緒にしておいてね」
「はい、わかりました」


 何とか二人を寮の自室に運んだ僕は、ベッドに二人を寝かせて一子ちゃんに事情を聞くことにした。
結論から言うと、結局、今回騒ぎになった七不思議のほとんどは一子ちゃんが散歩していた時の
不手際だったらしい。
「う……ん」
 紫苑さんたちが目覚めるようだ。僕は一子ちゃんにクローゼットに隠れてもらった。
「大丈夫ですか、紫苑さん、貴子さん」
「え……瑞穂さん……? ここは……?」
「お姉さま……?」
「ここは私の部屋です。二人とも気を失ってしまったのでここに運ばせてもらいました」
「あの……お姉さま、私達、一体……」
 詳しい事を説明したかったけど、何だか情けないし、何より一子ちゃんの事を説明しなければ
ならない。この二人になら話しても問題は無いと思ったけど、今回はやめておいて適当に誤魔化す
事にした。
「えっと、その……あれです、世の中には知らない方がいい事もたくさんあると言う事で……」
「……はい?」
「気のせいにしておいた方が幸せと言うか、無かったことにしてしまいましょうと言うか……。
幸い、このことは私たち三人しか知らないわけですし」
「そ、そうですね。ゆ、夢を見ていたのですわ、私達は。そうですよね、紫苑さま?」
「そう……ですわね、貴子さん。あれは夢でした、ええ」
「うふふふふふふふふふ」
「ふふふふふふふ」
「あは……あははははは」
 そして、僕はバス停まで二人を送っていった。

「おかえりなさいませ、お姉さま」
「ただいま、一子ちゃん」
「あの方たち、大丈夫でしたか?」
「まあ、なんとかね。それより一子ちゃん」
「はい?」
「散歩してはいけないとは言いませんけど、これからは今日みたいな事が起こらないように気を
付けなさいね」
「はぁい、わかりましたぁ」
「それにしても一子ちゃん、トイレなんかに行って何をしていたの?」
「いえ、放課後はトイレならあまり人が来ませんから移動しやすいんじゃないかと思いまして。それに
隠れるところも多いですし」
「なるほどね。でも鼻歌なんて歌いながらじゃ姿が見えなくても気付かれてしまうわよ?」
「へっ……私、鼻歌なんて歌ってませんよ? いくら隠れてても歌ったりなんてしたら他の人に気づかれ
ちゃうじゃないですか。やだもぅ、お姉さまったらぁ」
「……歌って、ない……?」
「はあ。……それがどうかしたんですか、お姉さま? ってすごい顔色が悪いですよ! 大丈夫ですか?!」
「え、ええ。大丈夫よ、うん、大丈夫……あは、あははははは」

僕は乾いた笑いを上げながらベッドに倒れこんだ。一子ちゃんが「もう寝るんですか?」と聞いて
きたので、そのまま一緒に寝てもらうことにした。一子ちゃんは幽霊だけど居てくれて良かったと思う。
貴子さんや紫苑さんは、大丈夫かな……。

次の日から僕と紫苑さんと貴子さんは三人でトイレに行く事が多くなった。周りからはエルダーと
元エルダーと生徒会長がトイレで何やら密談しているとか、あぶない関係(?)になったんだとか
言われて騒がれているけど、とても本当のことは言えない。
一人でトイレに行くのが恐いだなんて。

        糸冬


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