「おとボクまとめサイト」 >> 「おとボク」SS名作選 >> 『七夜の願い事』

『七夜の願い事』 by 「8-824」氏


「うんっと………これでよし」
「なにしてるの?」
 小さな二人がなにか会話をしている。
「これですか?これにお願い事を書いて吊るしておくとお願いが適うんですよ」
「え!?ほんとなの?」
「はい、そうですよ」
 一人は女の子だった。終始楽しそうにもう一人の男の子と話している。その男の子のほうはどうかというと、その少女の話に耳を傾けその度に色々な表情を浮かべている。
「僕も書いていい?」
「ええ、どうぞ」
 少女からなにか手渡された男の子は、目を輝かせながら、それに向かう。
「ね、ねえ?なにを書けばいいのかな?」
「うーん、なにか欲しいものでも書かれたどうですか?」
「そっか、そうだよね」
 そういうと男の子は直ぐに紙に書き出した。
「よし、出来た」
 出来上がったものを、誇らしげに少女に見せる。
「なにを書かれたのですか?」
「えっとね、このおもちゃが欲しいんだ。だって父様とか叔父さまはいっつも、女の子ようのおもちゃばっかり買って来るんだもん」
「あら?女の子みたいでいいじゃありませんか」
「僕は男だもん!」
「くすくす。あらあらごめんなさいね」
「もう………えいっと」
 男の子も自分が書いたものをそれに吊るした。
「これで適うかな?」
「ええ、きっと適いますよ。それではそろそろ中に入りましょうか。お腹空きましたでしょう?」
「うん!今日はなんだろう?」
「どうでしょうね、ふふふ。楽しみですわ」
 手を繋ぎふたりは歩き出す。
「天の川って見れるのかな?」
「きっと見れますよ、そうですね。お食事して夜になったらもう一度来ましょうか?」
「うん!あ、そういえば―――はなにを書いたの?」
「わたしですか?わたしは……―――さんがいつまでも幸せでありますようにって」


『七夜の願い事』


すっと目が開く。手元にある時計を確認すると9時少しすぎた所だった。
「こうして自分の部屋で、ゆっくり眠るのもいいわね」
ベッドから身体を起こす。寮では一子ちゃんと一緒に寝ているためか、なかなか気を使う
のだ。それはともかく、
「だれもいないのに自然にお姉さま言葉になってる僕って………」
 軽く自己嫌悪に落ちる。が、
「折角の休日なんだし、落ち込んでいられないよね」
 ひとつ自分に言い聞かせて僕は着替え始めた。

「たまにはこうして一人っていうものいいよね」
 街の中を歩きながら、そんな風につぶやく。
「学院だと、いつも誰かと一緒にだから……」
 それはそれで楽しいのだが、たまにはこうして一人でいきたいところもあるのだ。

男が一人で行きたい場所といえば勿論――

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====


「うわぁー、たくさんある。あ、これ欲しかったんだよねー」
 商店街の一角に佇むこのお店には、休日ということもあってか、なかなか人が多い。そ
れもだいたいは男のお客さんばかりだ。
「あ、MGのパーフェクトジ○ングだ。そういえば昔、ジオ○グの足にド○の足を付けて
 パーフェクトにしたりして改造したっけ」
 そうここはホビーショップ。男の子夢がたくさん詰まった素敵なお店だ。
「さすがにこんなところに紫苑さんや奏ちゃんを連れてこられないよね。まりやならきそうだけど………」
 思い出してみると、昔は僕がプラモデル作り上げるとまりやがやってきて、
「えい!」
 の一言で粉砕したりされていた。
(うぅ…ごめんね、みんな)
粉々にされたプラモデル達に心の中であやまり、僕は大きな箱をいくつか抱えてレジに向かった。

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====


家に帰ってくると、もう夕食の時間だ。どうやら、組み立てられるのは夕食後になりそうだ。そう考えて、僕は部屋に箱を置きに行った。

「あら、今日はなにか楽しそうね、瑞穂さん」
「あれ、そうですか?」
「ええ。なにかお顔が綻んでますわよ」
 自分で自分の頬を触ってみる。そんなに変だっただろうか?
「そんなことないですよ」
「ふふふ。それならいいですけど」
 夕食は、楓さんと二人で取った。父様はいないから仕方がない。昔は当たり前だったけど、こうして楓さんと一緒に夕食を食べるのもなんだか久しぶりで、楽しかった。楓さんもそうなのか、先程からずっとニコニコしながら話している。
 夕食を食べ終わると、僕は部屋に向かった。なにせいまから大仕事が始まるのだ。


「うん。これでいいな」
 道具などの準備を済ませると、早速箱を開けて取り掛かる。説明書は見なくても作り方はバッチリだ。

「ふう………」
 時計を見ると11時を回ったところか、僕はトイレに行こうと部屋を出た。廊下を歩きながら、ふと窓から外を見ると、人影が見えた。中庭のほうだ。こんな時間に誰だろうと思い僕は中庭のほうに出た。

 着いてみると、既に人影はさったのか辺りを静けさが包んでいた。特になにもない。一通り見回して帰ろうとすると、中庭に吊るされた木になにか吊るされていた。

「?」

 手にとって見ると、それは短冊だった。
「そっか、今日は………」
 その短冊に目を落とす。そこには流麗な文字で、
『これからも瑞穂さんが幸せでいられますように      楓』
「楓さん………毎年願っててくれたんだ」
 毎年毎年どんな時でも、自分のことを見つめてくれていた。

カサッ―
芝を踏む音が聞こえる。
「瑞穂さん………?」
「あれ!?楓さん」
 そこにはティーセットを持った楓さんがいた。

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====


「あ、それ見ちゃったんですか?」
「え、あ、えと……」
 僕が手にしてる短冊をみて、楓さんがくすくす笑う。
「戻ったんじゃなかったんですか?どうしてここに?」
「一年に一度しかない二人が会える日ですから、もう少し空を眺めていようかと。瑞穂さんはどうなされたのですか?」
「僕はトイレに行こうと思って廊下を歩いてたら、人影が見えたもので」
「そうだったんですか。ふふ、驚きましたよ?」
「僕もですよ。でも、これは毎年?」
「記念行事みたいなものですよ」
 そう言って微笑む笑顔は魅力的だった。
「そうだ、僕も書いていいですか?」
「ええ、どうぞ」
 紙とペンを借りて、僕も短冊に願いをこめる。
「なんて書いたのですか?」
「えっへん。これでもう大丈夫ですね」
『ほんとに女の子になっちゃいませんように       瑞穂』
「まぁ…ふふふ、うふふふ」
「も、もう結構真面目な悩みなんですよ!」
「ふふ…ごめんなさいね、ふふ」
 短冊を木に吊るして、ふたりで腰掛ける。

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====


見上げると高い空一面に、星空が広がっていた。
「綺麗………」
 どちらの口からこぼれたのか、そんな言葉が漏れる。
「今年は、瑞穂さんと一緒に天の川を観る事で出来て、とても幸せですわ」
「今頃、あの空の向こうで二人は一年ぶりの再会を楽しんでるんでしょうか」
「きっと、そうですわ。私たちみたいに。やっぱりいつもいた人がいないと寂しいものですから」
「楓さん………」


「さ、そろそろ戻りましょうか」
「そうですね」
 満足するまで鑑賞して、立ち上がる。
中に戻ろうとする楓さんの手を僕は掴んで、そっと握った。
「瑞穂………さん?」
「いつかの光景を思い出しました。あの時もこうして手を繋いでいたから。少しですけど、このままでいさせて下さい」
 そこから体温が伝わってくる。
「はい」


 僕にはその姿が天にいる織姫のように見えた――


――FIN――

「おとボク」SS名作選:目次に戻る

「おとボクまとめサイト」トップに戻る