「おとボクまとめサイト」 >> 「おとボク」SS名作選 >> 『春スキーに行ってきました』

『春スキーに行ってきました』 by 「9-52」氏

(まえがき)
出発
やれやれ到着
そしてコスプレ
そしてコスプレ×3
スキー場で迷子になっても携帯があると便利です
スキー場ではいろんなイベントがあります
お米とお酒はおいしゅうございました
すごい雪でした
すべってないよ
泊まるお宿は
某ボクシング漫画の宿です
窓から見えたのは雪の壁でした
みんなではいるお風呂は楽しいよね
おかずはともかくお米が美味しかった
3/31…マジですか?
恐るべし新潟…
千尋の谷に新郎を叩き落す
下が雪だからって危険です
つわものどもが夢の跡
旅の最後はおみやげです

 

   (まえがき)


『春スキーに行ってきました』
紫苑END後 貴子視点

なんらかのイベントが、
まりやさんの思いつき突発的発言によって始まるのはもはやお約束です
今回も「スキーに行こう!」とまりやさんが無理やり企画して強引に段取りをしました

そんなわけで今日は参加メンバー、瑞穂さん、紫苑様、まりやさん、奏さん、由佳里さん
そしてわたし(貴子)でスキーウェアやらスキー板やらを買いに来ています
そんなものはレンタルでよいではありませんか、と言ったのですが
まりやさんの「やだ!」の一言で却下されてしまいました

なんだかんだでショッピングと言うのは楽しいもので
結局アンダーウェアからスキー靴まで一揃い買ってしまいました…とんだ散財です
奏さんと由佳里さんはスキーはレンタル、ということにしたようでウェアだけ買いました
瑞穂さんと紫苑様は、まりやさんに見立ててもらっておそろいのウェアを買いました

出発前日、鏑木家に集まって瑞穂さんが借りてきたライトバンに荷物を詰め込みます
車のタイヤが雪道用というのがスキーをしにいく実感をかりたてます
バンの屋根にはスキーを載せるためのアタッチメントがついているので
そこに瑞穂さん、紫苑様、まりやさん、私のスキーを載せます
まりやさんの話だと目的地は新潟県の上越地方だそうです

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   出発


「出発時間は午前7時」
まりやさんが明日の予定を伝えます
「なんでそんなに早いんですか!?」
由佳里さんの至極真っ当な抗議です
「だって一泊二日だもん、いっぱい遊びたいでしょ?」
「そういえば、奏、予定聞いていなかったのですよ」
「なんでまたそんな強行軍で…」
今度は瑞穂さんです
「いや〜みんなの予定にあわせたらそうなっっちゃったのよ〜」
計画性があるのやらないのやら
「じゃあ、あした遅刻しないように今日は皆さんでここにお泊りしましょう!」
紫苑様が顔を輝かせています
「にゃはは、じゃあ瑞穂ちゃん家も含めて二泊三日だ」
その夜、奏さんが紫苑様の抱き枕になったのは言うまでもありません

瑞穂さんの運転する車は、関越道から上信越道に入りました
「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」
は湯沢ですので方向が違います
ですが長野県を過ぎたあたりから、道の端に雪が見えるようになりましたし
なにより小雪がちらつき始めました、東京はもう桜が咲いているというのに…

しかし、車内でまりやさんが大人しくしているのには驚きました
「ついたらいきなりスキーするからね、体力温存しとかなきゃ」
とは本人の談です、まあ一泊二日ですからね

妙高高原というインターで高速を降りて一般道に入ります
そこからはまりやさんのナビでスキー場を目指します

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   やれやれ到着


途中からスキー場の看板が目立ち始め、まりやさんのナビも
「あの看板どおり進んで」
で、終わってしまいました
スキー場に向かう途中私たちはめを疑いました
ここは本当に日本国内ですか?道路の周りが雪の壁です
二メートルぐらいはあるでしょうか、瑞穂さんが恐ろしいことを口にします
「この壁、崩れてこないよね」

着いたのは鏑木系列のスキー場
結局、東京から新潟まで一人で車を運転してきた瑞穂さんはぐったりしています
おまけに、あの雪の壁で神経も使ったでしょう
「腰が痛い…」
スキーをする前にダウンしてしまったようです
まりやさんは既に着替え終わっています
まあ服の上からウェアを着るだけなので、裸になるわけではありませんからね
そんなわけで、みんな駐車場に止めた車の周囲でウェアを着ます

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   そしてコスプレ


「瑞穂ちゃん、ちょっと来て!」
まりやさんがぐったりしている瑞穂さんを引っ張っていってしまいました
奏さんと由佳里さんはレンタルスキーを借りにいっています
残された紫苑様とわたしは「?」と顔を見合わせます
「スキーウェアでどうやって女装させるのでしょうね?」
やはりそこですか
「まさかゴスロリウェアとか用意していたりするのでは」
そんな話をしていると奏さんと由佳里さんがスキーを抱えて戻ってきました

「あれ?瑞穂お姉さまとまりやお姉さまは?」
…とりあえず由佳里さんの間違いを紫苑様が正します
「由佳里さん、瑞穂さんは男性ですよ」
「まりやお姉さま…また瑞穂さんを女装させにいったのでしょうか?」
「奏さん…あなたもそう考えてしまいますか…」
「でも、スキーウェアでどうやって女装させるのでしょうか?」
由佳里さんのもっともな疑問…瑞穂さんはどんな格好になっているのでしょうか?

まりやさんにつれられてきた瑞穂さんは常軌を逸した姿でした
いえ、この地方では通常の姿なのかも…
まず足元は藁で編まれた長靴を履いています、そしてこれは「もんぺ」でしょうか?
どてらを着て、何より特徴的なのが「蓑」!白川郷の合掌造りみたいな蓑です
まりやさんは「雪蓑」とよんでいます
「あらまあ、雪ん娘ですか」
紫苑様の顔が輝きます、ご存知なのでしょうか?
白皙に紅葉を散らした瑞穂さんの顔と相俟ってとても愛らしい姿になっています
紫苑様…ふらふらと瑞穂さんに近づいて…むぎゅ…抱きしめてしまいました

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   そしてコスプレ×3


「わあ〜お姉さまかわいらしいのですよ〜」
奏さん瑞穂さんは男性です
「いや〜情報誌のスキー特集でこの格好見てさ、瑞穂ちゃんにも着せてみたいなと
で、民芸品作ってる人に頼んだのよ、瑞穂ちゃんの写真見せたら快く引き受けてくれたわ」
「ねえ、まりや?もしかして僕にこの格好させるためにスキー企画したの?」
紫苑様を少し引き離して瑞穂さんが問いかけます
「それもある!」
断言しました!
「ああっ!わたくしは瑞穂さんのこのお姿を見れただけで
スキーに来たかいがありましたわ」
紫苑様も断言しました
たぶん瑞穂さんを除く全員が、そう思ったに違いありません
「ところでこの衣装、紫苑様と奏ちゃんの分もあるんだけど…」
まりやさんのその言葉に
「着ます」
の一言で答えた二人でした

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   スキー場で迷子になっても携帯があると便利です


その後、雪ん娘になった三人は瑞穂さんが疲れていることもあって
ゲレンデの下、子供用のゲレンデでソリで遊んでいます
傍目に見れば仲のよい親子です、その格好はちょっとアレですが

まりやさんと由佳里さんは体育会系らしく、思いっきりレースをしています
周りの人の迷惑にならなければよいのですが
この二人にはついていけないので、私はマイペースに滑っています

なんだかんだで時刻は昼の1時近くになっています
お腹もすいてきたので、まりやさん、由佳里さんと合流しお昼を食べようと
雪ん娘三人が遊んでいる子供用のゲレンデに向かいます
ですが、三人が遊んでいるはずの場所には雪ん娘の姿はありません

「三人ともどこいっちゃったんでしょうね?」
「う〜ん、あれだけめだつ格好だからすぐわかるわよ」
先輩後輩の会話を聞いてちょっとあたりを見回して見ます
すぐに人だかりが見つかりました
「あんなもの着てますからね、どうせ記念写真でも撮られているんでしょう」
と、体育会系二人と人だかりの方に行って見ました

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   スキー場ではいろんなイベントがあります


地元の方らしい半纏を着た男性数人、半纏には観光協会の文字があります、と雪ん娘三人が
スキー客に甘酒や日本酒や郷土料理などを振舞っています
記念写真も当然撮られています
美人三人、−ひとりは男性で、一人は美人というより美少女ですが−
がこういう姿でこんなことをやってればお客も集まるでしょう
「って、なにをやってるんですか三人とも!」
おもわずツッコミをいれてしまいました

「いえ、遊んでいたのですが…こちらで甘酒をいただこうとしたら…」
紫苑様の言葉を瑞穂さんがつなぎます
「ぜひ手伝ってくれ、と頼まれて…」
「それで断りきれなかったのね?瑞穂ちゃんらしいや」
まりやさんがトドメをさしました

「ねーちゃんらこの娘たちのツレかい?
いやーおかげで大繁盛だよ!終わるまでメシ食って待っててくれや」
答えも聞かずテントにつれてこられてお昼を振舞われてしまいました
このノリなら瑞穂さんたちが断りきれないのも無理もないのかもしれません

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   お米とお酒はおいしゅうございました


振舞われたのは、ごく普通のおにぎり、「のっぺ」という地元の煮物、
なかにはにんじん、ジャガイモ、こんにゃく、油揚げなどが入っています
とろみがついたお汁が特徴的でした、そして豚汁、
「あの、このお料理どうやって作るんですか?」
煮物に興味をもった由佳里さんが鍋で豚汁を作っているおばさんたちにレシピを聞いています
まりやさんは容赦なくおかわりをしています、
「少しは遠慮というものを知りなさい!」
私の一言も
「遠慮なんかしないで、じゃんじゃん食べておくれよ」
地元のおばさんたちもこのノリです

騒がしいお昼ご飯を終えた頃、瑞穂さんたちも解放されたようです
観光協会の方とテントに入ってきました
「こんな美人三人に手伝ってもらったからねー、
持ってきた商品全部あっという間に売り切れたよ」
ここで恒例の瑞穂さんの迷言
「あの…僕男なんですが」
そしていつもの如く誰も信じませんでした

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   すごい雪でした


お昼が終わって、まりやさんと由佳里さんは上級者用のゲレンデに行きました
もはや、この二人にはついていけません、怪我をしないことを祈るばかりです

瑞穂さんたちはソリで遊んだり、雪だるまを作ったりしていましたが
やっぱりスキー場のイベントか何かと間違われて、記念撮影を頼まれていました
スキーをしにきたというのに…
しかし、いくらスキー場とはいえ
3月末だというのに積雪が3メートルを超えているというのは驚きました

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   すべってないよ


時刻も4時をまわり、まりやさんと由佳里さんもゲレンデふもとまで降りてきました
「や〜滑った、遊んだ、疲れた」
晴れやかな顔です
由佳里さんはスキー場についた頃の瑞穂さんのようにぐったりしています
「それじゃ私スキー返してきますね〜」
由佳里さんはレンタル場に向かいました
何かをハッと思い出したように奏さんが由佳里さんを呼び止めます
「由佳里ちゃん!待ってくださいなのです〜
 奏もスキーを返しにいくのですよ〜」
そういえば奏さんもスキーを借りていたんでしたっけ
「せっかくスキーを借りたのに一度も滑っていないのです〜」
奏さん…かわいそうに
「そういえば、わたくしスキーを買ったのに滑っていませんわ」
「…僕も…」
「ああ〜そういえば三人ともウェアもほとんど着てないね」
「まりやさん…それはあなたせいではないのですか?」
「まあ、明日午前中にスキーすればいいじゃない」
瑞穂さんがちょっと恨みがましい目でまりやさんを見ました

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   泊まるお宿は


「さて、宿に向かいますか」
「そういえば、どこに宿をとってあるのですか?まりやさん」
「地元のペンションを予約してあるのよ」
ここは鏑木系列のスキー場、ゲレンデのすぐ脇に同じく鏑木系列のホテルがあります
「なんで、ホテルにしないんですか?まりやお姉さま」
「まりやさんだからでしょう」
私の言葉にまりやさんは言い返せませんでした
「…じゃあ、瑞穂ちゃん車だしてね」

「ねえ…まりや…本当にこの道でいいの?」
瑞穂さんが不安になってきています
それはそうでしょう、道路はもはや舗装されたものではなく「砂利道」になっていました
周りはやはり雪の壁で、高さは3メートルにもなっています
まりやさんを除く全員が少々不安になっています
唯一の救いは道に轍の跡、−それも比較的新しい−が残っているくらいです
「う〜ん…一本道だから迷うことはないんだけど」
まりやさんも不安になってきたようです

「あ、見えてきた!あれだよ!」
山道を登り続けてやっとペンションにつきました
看板には「ペンション義男」とあります
「義男って名前だけど、オーナーは猫田銀八さん
義男ってのは日本初のボクシング世界チャンピオンからとったんだって」
まりやさんが解説してくれます
みなさんは無事、到着したことに胸を撫で下ろしたようです
「なんだか仙人にでもなった気分です」
紫苑様のおっしゃるとおり俗世間とはかけ離れた世界に来てしまったようです

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   某ボクシング漫画の宿です


「お世話になりま〜す!」
今までの不安はどこへやら、由佳里さんが元気よくドアを開けます
「よくきたダニ、ゆっくりしてくといいダニ」
人のよさそうなおじいさんが出迎えてくれました

「ねえねえ、猫田さん、お風呂沸いてる?や〜もう疲れちゃって」
まりやさん、ついた早々…
「頼まれたとおりお風呂沸いてるダニ、ゆっくり入ってくるといいダニ」
どうやら予約するときに頼んでいたようです
「では、みなさんで一緒に入りましょう!」
紫苑様の提案に否やはありません、
「ですがここのお風呂みんなで入っても大丈夫なのでしょうか?」
猫田さんに聞いてみます
「6人くらいなら大丈夫ダニ、うちの風呂は結構広いダニ」
「じゃ、お風呂へレッつらゴウ!」
もうなんのネタかわかりません、まりやさん…

「君は行かないダニか?」
猫田さんが瑞穂さんに聞きます、もう恒例行事ですね
「僕は男なので…」
「またまた嘘つくダニ、男がこんな美人なわけないダニ」
「その方…瑞穂さんは間違いなく男性です、わたくしの夫ですもの」
紫苑様の言葉を聞いて猫田さんは二度びっくりなようです
「……ちょっとファイティングポーズをとってみるダニ!こうダニ」
瑞穂さんにボクシングのファイティングポーズをとらせて腕や足を揉んでいます
「…筋肉は間違いなく男のものダニ…信じられんダニ」

「はやくお風呂にはいりましょうよ〜」
由佳里さんに急かされて私たち女5人はお風呂場へといきました

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   窓から見えたのは雪の壁でした


「いや〜絶景かな、絶景かな」
「ほんとうにすばらしい眺めですわ」
紫苑様とまりやさんは悠然と窓からの景色を楽しんでいます
かたや私と由佳里さん奏さんは、もう湯船に入る勇気さえありません
「なにやってるのよ三人とも、こっちにきなさいよ」
ちょっと待ってください、気を落ち着けますから
「…まりやさん…なんなんですか!この宿は!」
ついたときは雪でわかりませんでしたが
「なんで絶壁すれすれに建っているんですか!?」
そう、お風呂に入ってようやくわかったのです、崖の上に建っていることが
「いつ地滑りして落ちてしまうかわからないではありませんか!」
私の言葉に体を洗っていた由佳里さんがビクッと反応して…
「お・お姉さま方…わ・わたし…もうあがらせていただきますね…」
「かかかかなもあああがります〜」
立ち上がって扉のほうへと向かいますが…
「おまちなさいゆかりん、さあ、お姉さまと一緒にお風呂にはいりましょうねえ〜」
腕をつかまれて湯船に引きずり込まれてしまいました
「奏ちゃんも♪わたくしと一緒に」
紫苑様も奏さんを抱っこして湯船に入ってしまいました
こんな場所で平然としていられるなんて…なんて神経なさってるんですか二人とも
さて、由佳里さん、奏さんあなたたちの犠牲は無駄にはしません
「た〜か〜こ〜どこにいくのかにゃ〜」
ガシッと右腕をまりやさんに、左腕を紫苑様にとられてしまいました
「さ、貴子さん、女同士の友情を深めましょう」


「それにしてもゆかりん、けっこう育ってるわね〜」
「えええっ!まりやお姉さまっ!やめてくださいっっ!」
まりやさんが由佳里さんの胸をわしづかみにしてしまいました
「おおっ!よかったまだ負けてない」
「ままままりやさんんっ!なんて破廉恥なことをっ!」
「ふふふふふ〜貴子もけっこうあるじゃん」
まさか私にまで?
「きゃああああああ!!」
もう叫ぶしかありませんでした

「あらあら楽しそうですわね」
「紫苑お姉さま〜奏の胸を撫で回すのやめてくださいなのです〜」

「「うう…もうお嫁にいけない…」」
私と由佳里さんの口から同音同語が漏れました
「ですが私たちだけ、というのはあんまりですわね」
「そうですね、貴子お姉さま」
「由佳里さん…」
「はい」
「ありゃ?もしかして貴子怒ってる?由佳里?なんでこっちによってくるの?」
「まりやさん、由佳里さんは陸上部の、あなたの後輩ですが
生徒会の、私の後輩でもあるんですよ」
「まりやお姉さま、許してくださいね、先々代の会長のご命令ですから」
「ゆかり〜うらぎりもの〜!」
由佳里さんがまりやさんをおさえこみました
「では、まりやさんのお胸、堪能させていただきますわ♪」

「あらあら貴子さんに由佳里ちゃん、崖の上だってあんなに怖がっていたのに」
「はうっ!奏も忘れていたのです」

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   みんなではいるお風呂は楽しいよね


「こんなに騒がしいお風呂は初めてですわ」
率直な感想を言ってしまいました
「わたくしもです、こんなに大人数でのお風呂は」
紫苑様もうれしそうです…まだ奏さんを抱えていますが…
「まあ、寮ではたまにみんなで入ってたりしたからね」
「でもでも、やっぱり楽しいです」
由佳里さんがまりやさんに答えます
「景色も慣れてしまえば、とても素敵なのですよ〜」
ええ、本当に、窓からは一面の銀世界が楽しめます、
もう立地条件のことは気にしないでおきましょう
…まりやさんのつぎの台詞がすべてを台無しにしてしまいますが
「よーし、汗もながしたしご飯にしよう!」
「騒いだらお腹減っちゃいましたね」
由佳里さんまで…やっぱりこの二人先輩後輩です

着替えを済ませて戻ってみると
瑞穂さんと猫田さんは、なにやら話し込んでいました
「ぺっこ昔の話で盛り上がってしまったダニ、瑞穂ちゃんもお風呂の入るダニ」
「あ、はい、じゃあお風呂いただいてきますね」

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   おかずはともかくお米が美味しかった


瑞穂さんもそろったところでお夕飯になりました
「やっぱ新潟のお米はうまいわ!猫田さ〜んおかわり!」
まりやさん…食べすぎです…ご飯ばかり3杯も
「お酒もおいしいですねぇ」
紫苑様は飲みすぎです、もう4合は飲んでいるのではないですか?

「みんな明日はどうするダニ?」
ご飯を飲み込んでまりやさんが答えてくれます
なにせ予定を立てたのはこの方なのですから
「明日は午前中スキーして、午後には東京に戻る予定なんですよ」
「僕も紫苑もスキーを買ったのに全然滑ってなくて…」
瑞穂さんが今日の顛末を楽しそうに話しています

ご飯の後由佳里さんが持ってきたトランプやら花札やらカードゲームで遊びました
…私とまりやさんの激闘も、まあ恒例行事ということで…

久しぶりに楽しい一日でした
…ですが、私は新潟という土地をこの時まだ甘く見ておりました
翌日あんなことになるなんて

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   3/31…マジですか?


そう、今日は3月31日
当初の予定では午前中にスキーを楽しんで、午後に東京に戻ることになっていました

朝、瑞穂さんは猫田さんと一緒に起きてきました
いくら女みたいでも「同じ部屋で寝るのはまずい」ということで
お部屋は床暖房でしたので快適に眠ることができました
お寝坊さんのまりやさんを除いて、ペンションにいる全員がそろっています

さて、では猫田さんに状況の説明をお願いするとしましょう
「猫田さん、窓の外から見えるのは一体なんでしょうか?」
猫田さんは窓を見ると、見慣れたもののように
「吹雪ダニ」
簡潔明瞭に答えてくれました
「なんで!3月31日に!吹雪が吹くのですか!」
つい怒鳴ってしまいました
「ワシに言われても困るダニ、今年の冬は異常ダニ〜」
「3月31日は普通、冬って言わないんじゃ…」
由佳里さんの言うとおりです

「それじゃあスキーは…」
今日のスキーを楽しみにしていた瑞穂さんですが
「無理ダニ、これだけ風があるとリフトも動かないダニ」
がっくりうなだれてしまいました、久しぶりに落ち込む瑞穂さんを見ました

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   恐るべし新潟…


「ねえ、それより車は動くの?」
いつの間にか起きてきたまりやさんが加わります
「そうですわね…東京に戻れるか心配です」
「もう30センチは積もってるダニ、車を動かしたら確実に事故るダニ」
「あの〜道が埋まってるのですよね〜それってまさか…」
その先は言わないでください奏さん…
「陸の孤島…」
奏さんの言葉の先を由佳里さんが言ってしまいました、全員の顔が青ざめます

「ま、冬になればここは陸の孤島ダニ、いつものことダニ」
ご当地に住んでいる猫田さんは平然としています、
さらりと「いつものこと」とか言ってますし
「とりあえず今日はここで遊んでるか、由佳里の持ってきたゲームもあるし」
「なんならもう一泊してくダニ、自家発電機もあるし食料もまだまだあるダニ」

まあ、吹雪は午前中で収まりました、道はまだ埋まっていますが
吹雪がやんだあと、瑞穂さんは猫田さんと車の発掘作業に向かいました
半ばまで雪に埋まってしまったライトバンを掘り出しています
もう春だというのに、なんでこんなに雪が降るんでしょう、ここは

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   千尋の谷に新郎を叩き落す


結局、道が通らずもう一泊することになりました
4月1日の朝は騒がしく始まりました
午前6時頃です、いきなり工事が始まったような音がしてみんな目を覚ましてしまいました
リビングに行ってみると猫田さんが朝食の用意をしていました

眠り眼をこすりながら由佳里さんが聞きます
「なんなんですか?この音?」
「ダニ?地元の業者が除雪作業をしてくれてるダニ」
「え?じゃあ東京に帰れるんですか?」
眠そうだった由佳里さんが途端に元気になりました、対称的に猫田さんはしょんぼりしてます
「美人が6人もいたのに寂しくなるダニ…」
6人…瑞穂さんも入っているのですね…

朝食が終わって、一日ずれてしまいましたが私たちはスキー場に向かいます
猫田さんも外までお見送りしてくれます
荷物を車に積んで乗り込もうとしたところ、猫田さんが
「そうダニ!婿投げをやるダニ!」

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   下が雪だからって危険です


「婿投げ?」
唯一のお婿さんである瑞穂さんが尋ねます
「ダニ、お婿さんを崖から放り投げるダニ」
全員がバッと例の崖を見ます
「さすがにあそこから落ちたら、いくら下が雪でも死ぬダニ
あそこら辺でいいダニ」
そういって雪の山を指差します、
高さは5メートルほど、除雪した雪を積み上げたのだそうです
下は昨日積もった50センチほどの雪、あそこなら死ぬことはないでしょう

「じゃあ瑞穂ちゃん来るダニ、あ、嫁さんは下で待ってるものダニ」
猫田さんは70過ぎの老人とは思えない力で瑞穂さんを引っ張っていきます
「ちょちょちょっとまってよ〜」
瑞穂さんも抵抗しますが…普通抵抗しますわね…
「猫田さ〜ん、わたしも手伝いま〜す」
悪魔のようなまりやさんが、瑞穂さんを雪の山に押し上げます
紫苑様は、だんな様の災難を面白そうに見ています
後で瑞穂さんに聞いた話では、猫田さんは元ボクサーなのだそうです、
いまでもトレーニングをしているそうなので、老人といっても力があるのだそうです
まりやさんは…瑞穂さんは暴力を振るえる人ではありませんものね…


多少、抵抗はしたものの紫苑様のお婿さんは雪山の頂上に連れて行かれてしまいました
「まりやちゃん、足を持つダニ」
「りょうか〜い」
「まりや〜なんでそんなに楽しそうなの〜!」
瑞穂さんが健気に抵抗しています
「あなた〜がんばってくださいね〜」
紫苑様の応援?です
「「瑞穂さ〜ん、気をつけて〜」」
やさしい妹をもって瑞穂さんは幸せです
私は…ここまでくるとなんて声をかけたらいいかわかりません
猫田さんに腕を持たれて、まりやさんに足を持たれて、
瑞穂さんは振り子のようになっています
「「い〜ち、に〜の、さん!」」
二人はタイミングを合わせて瑞穂さんを持つ手を離します
瑞穂さんが雪山のてっぺんから放り投げられてしまいました
「わああああああああ!」
綺麗な叫び声を放ちながら…
中腹で1回バウンドして…ボソリと雪の中に埋まりました
すかさず、紫苑様が駆け寄って瑞穂さんを救出します
「大丈夫ですか?あなた」
「これで家内円満ダニ、夫婦の絆が強くなるダニ」
本来は松之山町というところの行事なのだそうですが
瑞穂さんと紫苑様の絆が強くなるにこしたことはありませんからね

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   つわものどもが夢の跡


放り投げられた後、予定を変更して上越市街を抜け春日山城跡に行きました
上越市街までくるとさすがに雪がありません
春日山城は戦国の名将、上杉謙信の居城です
車を降りてから結構な山道を歩きます
「空気が冷たいのですよ〜」
奏さんの言うとおり東京から来た私たちにはこの寒さはこたえます

「ここが本丸址ですか…」
紫苑様が石碑を見つけました
「狭いような…広いような…」
由佳里さんがつぶやきます
「確かに、建物がないから広さ的にどうなのかわからないわね」
由佳里さんの呟きを聞いたまりやさんです
ここには石碑と説明を書いた看板があるだけです
「つわものどもがゆめのあと…」
今度は瑞穂さんが呟きます
「…ふふ…なんだか歴史の流れのようなものを感じますわね…」
「おおっロマンティストだね〜貴子は」
「なっまりやさん、茶化さないでください」
「ええ、わたくしたちも歴史の中にいるんですね…」
紫苑様は本丸址から彼方をうっとりとみつめています

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====

   旅の最後はおみやげです


かつて、ここからどのような人がどんな思いで、
この景色を見ていたのでしょうか
いやでも感傷に浸ってしまいます
このような想いを壊すのは…やっぱりまりやさんです
「よし!おみやげを買いに行こう!」

春日山城所縁の春日神社近くの売店で
「毘」−謙信の旗印です−グッズを買い込んでしまいました
まりやさんは「毘」の陣頭旗を買っていました…
「かっこいいじゃない」という理由で…そんなもの部屋のどこに飾るんですか?
途中飲み物を買うために立ち寄ったお酒屋さんで…
紫苑様は地酒を大量に買い込んでいました…よほど気に入ったのでしょう

「さて、おみやげも買ったし東京に帰ろうか」
最後までまりやさんが指揮をとってしまいました
帰りの車中誰も口を開きませんでした、みんな疲れて眠ってしまったから
一人起きて運転している瑞穂さんには悪いですが、私もそろそろ眠らせてもらいます

眠りに落ちる前…瑞穂さんの呟きが聞こえました
「結局スキーしてないよ」

===== * ===== * ===== * ===== * ===== * ===== * =====


#長々と付き合ってもらってありがとうございました

「おとボク」SS名作選:目次に戻る

「おとボクまとめサイト」トップに戻る