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『約束のブーケ』 by 「9-228」氏


>>228です。
今度は貴子さんEND後の貴子×まりやを投下。
性描写なし、会話中心です。
エトワールの別視点という設定です。

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「お邪魔します」
「いらっしゃい〜貴子」
 今日は半ば恒例となっていた、まりやプロデュース君枝メイク講座のために学園の寮にやって来ていた。メイクを教えられるのは君枝さんなので、本当は私は付いて来なくてもいいのだけれど、まりやさん一人に任せては不安……ということで、いつのまにかメイク講座には私も出席することに。
「本当は元寮生のまりやさんも『お邪魔します』のはずなんですが……」
「そこはほら、勝手知ったる元我が家ということで」
 ……OGに寛容な学園に感謝しなくてはいけませんね。


「それにしても、まだ少し早いのではありませんか?」
 授業が終わって、君枝さんや奏さんたち寮生が帰ってくるまでにはまだ時間がある。
「あー、いいのいいの。貴子と話したいことがあったし」
「私と話したいこと…ですか?」
 まりやさんと2人きりのときに話す事といえば、それこそ誰にも言えないような愚痴や、
私と瑞穂さんとの事くらいなわけで……つまりあまり気が進まない話ばかり。
「貴子少し太った?」
 少しうんざりしたような顔をしていたと思う私に浴びせられた言葉はそんなものだった。
「いきなりそうきますか……」
 さすがまりやさん、こちらの想像の斜め上を行く話術に関しては天才的ですわね。
「んーそうでもないか。やっぱりまだか」
 試合開始直後のいきなりの渾身右ストレートの後、じろじろと私の体を見回してまりやさんは詰まらなそうにそう言った。


「一体何の話です? いくらなんでもそんなに急に太ったりいたしませんよ」
 学園を卒業してからは顔を合わせる機会は減ったものの、月に一度くらいの頻度では会っていたはずだ。そして1ヶ月前と比べて目で見て分かるような太り方をしたつもりもない。ついでに体型が分かるような服装でもない。……ドレスではありませんよ?念のために言っておきますけれど。
 ということは……。
「あるじゃん、急に太る心当たり」
 私が反撃のパンチを放とうと力を溜め始めたその瞬間、悪びれもしない声でそんな答えが返ってきた。
「心当たり…ですか?」
「あんたたち、避妊はちゃんとしてる?」
 試合開始45秒、厳島貴子1RKO。


「な、なななな、い、いきなりなんてことをっ!!」
 頭の中が真っ白に。
「心当たりあるんじゃないの〜?」
 それでもたぶん顔は真っ赤で。
「ありません、ありません、あ・り・え・ま・せ・ん!」
 自分でも何を言ってるのか分からない。でも目の前の悪友が悪意に満ちた笑顔でいることだけはわかる……。
「え…本当に無いの……?」
 まりやさんの表情が哀れんだような微妙なものに変わる。……その同情したような目は止めてください!
「い、いえ、全く無いかといえばそうでもないような、でもいっぱいという訳ではないような……」
 ほ、本当ですよ、これでも我慢しているんですから……平均、というものがあればそれを超えているだろうということは認めますが。これでも若さに負けて流されないようにそういう事はちゃんと考えて……。


「だよね! だよね! だよね〜!!」
 ……なんですかまりやさん、その最高の笑顔は、立てた親指は。なんて分かりやすく親父くさいお嬢様なんでしょう。
「私絶対に遊ばれていましたね、まりやさんに……」
 そう気づいたのは、いつもより77%ほど詳しく『瑞穂さんとの事』を白状させられ始めてからだった。


「妊娠してたって、いくらなんでもそんなに急にはお腹が大きくならないと思うよ。もちろん個人差が大きいと思うけど」
 食堂でジャム入りのやたら甘そうな紅茶(原型無し)を飲みながらまりやさんはそう言った。聞きたいことを聞いて、さすがに満足した(笑い疲れた)らしい。
「心臓に悪いので先程のような冗談はもう止めてください……」
 見ただけで口の中が甘くなってきたので、私は砂糖無しの普通の紅茶。私はもうへとへとのへろへろ。
「いやーごめんごめん。でもちょっと貴子と話したかった事と関係あるかも」
 少しまじめな顔つきになったまりやさんが話し始める。
「私と話したかった事にですか?」
「そそ、私の留学の事」
 私と瑞穂さんとの事とまりやさんの留学の事――それは私が少しだけ、でもずっと気になっていた事だった。

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「…お聞きしますわ」
 その言葉を搾り出すまでにどれくらいの時間を必要としただろう。たったの数秒だったんだろうけど、私にはそんな長さに思えた。
「そんなに堅くならないでよ」
 そう言われても全く表情が変わっていないであろう私にまりやさんは続ける。
「貴子、おめでとう。そしてありがとう」
「…え?」
 時間を調節して2人きりになって、私と瑞穂さんとの事を冷やかして、そして『おめでとう』と『ありがとう』――話が繋がらない。
「一度ちゃんと言っておきたかったんだ」
 そう言うまりやさんの表情は優しい。
「それはどういう……?」
 私はまりやさんが瑞穂さんを好きなことを知っていた。知っていて私は瑞穂さんを好きになって、そしてまりやさんから奪った――。そんな事をまりやさんは思ってなんかいない、それは分かっているけれど、私とまりやさんの立場が逆だったら、私はとてもまりやさんの惚気話なんて聞けない。孤独な負の思考連鎖から抜け出せないでいたと思う。だから考えずにはいられなかった。
「私はあなたから感謝されることなんて…だって、だってっ!!」
「瑞穂ちゃんを幸せにしてくれたし、あたしを外の世界に飛び立たせてくれた」
 たぶん泣きそうな顔をしている私とは対照的な表情でまりやさんはそう言った――。

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「あたし瑞穂ちゃんを好きだったんだと思う。本当に異性として意識して好きだったかどうかは今でもよく分からないけど、瑞穂ちゃんは私にとって特別だった」
 私は無言のまままりやさんの話しを聞く。
「だから誰かに瑞穂ちゃんを取られるのが許せなかった。でも貴子と瑞穂ちゃんが仲良くしてるのを見て分かっちゃったんだ。私じゃ瑞穂ちゃんをあんな顔にできない。瑞穂ちゃん、本当に幸せそうだもん」」
 自分でも考えないようにしていたかもしれないような、心の底の一番深いところの声だと思った。それをぶつけてくれたと思った。
「わ、私だって、私だって決して瑞穂さんに相応しい女なんかじゃっ!!」
 だから私もそれに答える。
「私なんか…」
「あんたさあ、瑞穂ちゃんに選ばれたんだから素直に喜びなさいよ。あのお堅い瑞穂ちゃんに自分からキスさせたんでしょ?」
 私の言葉を遮って、呆れたようにまりやさんがいう。
「貴子は好きな人に振り向いてもらいたくて、必死になって、形振り構わず頑張った。だから幸せを手に入れられたんだと思う」
 それはあなたが助けてくれたから、応援してくれたから……。
「頑張った分だけ報われる事ばかりじゃないのは分かってる。だけどあたしも形振り構わず頑張って、自分を許せるような生き方をしたいんだ」
「まりや、さん……」

「だから貴子、おめでとう。そしてありがとう」 

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「結婚式にはちゃんと呼びなさいよね」
 本音をぶつけ合って、さすがに疲れて、一息ついて、二杯目の紅茶を飲みながらまりやさんが言う。…今度はジャムが入っていない普通の紅茶のようだ。
「もちろんです。地球の裏側にいたって出席していただきます。」
 さらに疲れた私は砂糖たっぷりの紅茶。
「でも、本当に地球の裏側に近かったりするから面白いよね」
 いくら飛行機で半日もあれば帰ってこれるといっても、そんな所にまりやさんは留学する。
「私が投げるブーケはあなたの予約済みなんですから、本当に帰ってきてくださいね?」
「えー、私のほうが先に結婚するつもりだったんだけど」
 こちらの想像の斜め上を行く返答。
「ふふ、予定なんて全く無いくせに」
「人生なんて分からないもんだよ。いい見本が…そこのおまえじゃああっ!!」
 もうテンション復活。元気すぎますわ。
「…確かにその通りですわね」
 親に無理やり入学させられた鳥篭の様な女学園で後輩に慕われて、天敵だった人が親友になって、そして人生を共にする男性に出会って――。本当に人生とは分からないものですね。

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「ただいま帰りました」
「お邪魔いたします」
 奏さんと君枝さんのようだ。
「あら、貴子さまとまりやさま御二人だけですか?」
 由佳里さんも新寮生の二人も、まだ帰ってきていない。
「随分楽しそうなお声が聞こえたのですけど、何のお話をしていたんですか?」
 君枝さんがそう聞いてくる。
 一年生コンビがいないということで、少し悪戯心が生まれる。

「ブーケの話ですよね」
「そそ、ブーケブーケ」
 私とまりやさんは笑いながら答えた――。

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#以上です。
#改行が下手で、読みにくくしてしまって申し訳ありませんでした。
#前作も今作もタイトルはパロです。

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