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応援2〜強襲!東宮主従〜 by L鍋氏

『応援』からの続き

2月のある土曜日。
授業が休みの恵泉女学院の会議室。
ここで行われている討論会。…も、とっくに終了時間が過ぎていた。
貴子は呆れたように正面に座る人物の顔を眺めている。

聖マーガレット学園生徒会長

聖マーガレット学園は恵泉女学院と同じくカトリックのキリスト教系お嬢さま学校である。
恵泉女学院は近隣の女子高と親睦を持つために、お互いの生徒会同士で交流をする連合会に参加している。
恵泉が所属している連合会に参加している女子校は4校。男子校や共学校も含めるともっと多いのだが、
女子高以外との交流はこれまでのところ行っていない。
この女子高4校で定期的に討論合宿や合同バザーなどを行っていたのだが、今回、討論会の会場予定だった
聖マーガレット学園(以下、聖M)の会長から会場を変更して欲しいと電話連絡があった。
「分かりました。東宮さん、それでは次回、予定だった清涼女子高校(以下、S校)にしましょう」
「いえ、S校も都合が悪いそうです。厳島さん、申し訳ありませんが恵泉でお願いしたいのです」
「ええ!?急にそんなことを云われましても」
「他の学校にも既に会場変更は連絡していますのでよろしくお願いいたします。ではごきげんよう。ホホホ…ガチャ!」
と云ったかなり強引な連絡があったのが昨日の話である。
各学校から生徒会のメンバーが2人ずつ参加して行われる討論会。
内容は様々だが、要は各学校の近況を報告しあう親睦会に過ぎない。
朝、それぞれの学校が集まってきたとき、貴子はS校の会長に都合が悪かったのか訊いて見ると、S校会長は
首を振って、東宮さんに会場変更とだけ聞いたと答えた。

(この人は何を考えていらっしゃるのかしら)

澄ました顔で貴子の前のテーブルについている聖M学園生徒会会長、東宮(あずまみや)葉月。
手元の羽扇子を開いたり閉じたりしている。少し変わった人物だが、学業成績優秀、容姿端麗、親が学園理事の才女という評判の美少女。
「それでは次の議題に参りましょう」
東宮がそう云いだすのを手を上げて止める貴子。
「ですが、もう時間ですし」
会議室の壁にかかっている時計をみる。
終了予定の3時を過ぎ、現在3時30分。
「え?5時までではなかったのですか。そう聞いていましたが。そうですよね、すずめさん」
そう云って隣の席の女生徒の顔を見る東宮。
隣に座っているのは聖M学園生徒会書記。君枝のような三つ編みおさげをした、ちょっとほんわかとした感じの女生徒。
「そうですねぇ。お嬢さまはそのつもりでいらっしゃいましたねぇ」
「…会長と云いなさい」
「申し訳ありません。お嬢さま」
「……」
会議室の他のメンバーは皆、微妙な表情。
とっくに終わっているはずなのに、訳も分からずズルズルと引き伸ばされているのだから当然だろう。
「7月のバザーの件ですが…」
「ち、ちょっと待ってください。我々は、東宮さんも含めて今年卒業ですよ。7月の話をしても仕方ないでしょう」
「そうですか。では、夏の合宿について…」
「ですから!そのような先の話をっ」
「すいません。お嬢さまは人の話を聞かない人ですからぁ」
ゴンッ!
「いたぁ」
「どうかしました?」
貴子が尋ねた。東宮がちらりとすずめと呼ばれた書記をみる。
「あら、すずめさん。足を椅子にぶつけたようですね。気をおつけなさい」
「はいぃ」
「とにかく、今日はこれで終了ということで」
「10月の親睦パーティーのことですが…」
「・・・あああぁ!東宮さんっ!」
「はい?」
「だからっ!何度云えば分かってもらえるんですか!そのようなことは次の世代のメンバーが決めれば良いことです!
我々は本日で終了なのですから!」
「………」
ん〜っと少し考え込む風な表情の東宮。
「厳島さん」
「はい?」
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
思わずガクっとなる貴子。
「ど、どうぞ」
スッと立ち上がると東宮はすずめに声をかける。
「行きますよ。すずめさん」
「えっ?」
すずめがキョトンとする。
「はやくいらっしゃい!」
「は、はいぃ」
ばたばたと部屋を出て行くふたり。
その様子をぼーっと見ていた貴子は、ふぅと息を吐き出した。

(あの書記の名前は、確か遠井すずめさんだったかしら。東宮さんのお宅で一緒に暮らしていると聞いたことがあるけど)

部屋の中を見渡す。
他の学校のメンバー、S校とH校(羽衣女学院)それぞれ2名ずつ、そして貴子の横にいる副会長の葉子。そして貴子自身。
計6名が全員、疲れたような顔をしている。
「一体、どういうつもりなのでしょう」
(東宮さんは才媛の呼び声高い人なのですが…)
貴子と東宮との付き合いは高等部一年生で生徒会に出入りするようになってからなのでそろそろ3年程になる。
なのに未だに理解できないことが多い。
「さあ?何やら無理やりに引き伸ばしているように思えますが…」
葉子はそう云うと何かに気づいたように急に口をとじた。
そして無言で立ち上がるとドアの方へ向かう。
「葉子さん?」
葉子はドアに手をかけると、わずかに引っ張り10センチほどの隙間をあけた。
「……聞こえます」
何が?と貴子は云いかけて耳をすました。
廊下の向こうのほうで誰かが話している声が微かに聞こえてくる。
授業が休みの校舎内で、人通りが無く、遠くの声も微かに響いてきている。


《……と、云ったでしょう!…忘れたの…何とか…》

《……申し訳あ…きっと…》


「誰でしょうか?」
「東宮さんと遠井さんのようです」
部屋の中にいる全員が喋るのを止め、微かに聞こえてくる会話に耳を澄ませた。


《……目的…それまで…》

パシッ!

《イタッ…ハイ…》

《……何とか理由を考え…時間まで…寮に…》

《……分かりま…考えてみま…》


それから声が聞こえなくなったので、葉子はドアを閉めるとそのまま席に戻った。
「今のは何だったのでしょうか?」
「どうやら会議を引き延ばす理由があったようです。それが今の会話でしょう」
葉子が小首をかしげながら答える。
「誰かに会おうとしているようですね」
「今回の会場を強引に恵泉にしたのもそれで?」
そのとき、ドアを開けて東宮たちが戻ってきた。
「失礼いたしました」
席に着くふたり。
え〜こほん、と咳をしてから貴子が口を開く。
「時間もだいぶ過ぎていますし、用事がある方もいらっしゃいます。ここで今回は終了と云うことにしましょう」
「あ、えっとちょっと待ってください。厳島さん」
「何でしょうか?東宮さん」
「えっと、実はですね、すずめさんが何かあるそうなのです。そうですね?」
東宮がすずめに話を振る。
すずめが、「えっ?」という顔をする。
ゴンッ!
「いたっ」
「どうしましたか?」
「どうやらすずめさんがまた、足を椅子にぶつけたようで。お気をつけなさい」
「は、はい」
慌てたようにすずめがコクコクと頷く。
そしてすずめが神妙な顔で話し出した。
「実は皆さんに相談したいことがありますぅ」
「ほう?」
全員が興味深げに前に身を乗り出す。
「税のことなんです。税源移譲で結局は同じと役所は云ってますがぁ、どうも住民税が高すぎるような気が…」
「何の話ですかッ!!!それはっ!!!」
貴子が叫ぶ。
「だから住民税」
「云ってる意味が理解できません!高校生の貴女が住民税の相談をここでする意味が理解できません」
「そうは云っても国民として大事なことですよぉ?税金」
ゴンッゴンッ!!
「イタタ」
東宮の目がつりあがっている。
「…モウイイ、ダマリナサイ。ほほほ、厳島さん、スイマセン。ちょっとお手洗いに」
「えっ、また?」
「ちょっと気分が優れませんので」
すずめが能天気な口調でフォローする。
「最近、お嬢さまはトイレが近くなってぇ」
ゴンゴンゴンッッ!!!!!
「イタッ、痛いっ」
きつい顔つきで、羽扇子を握り締めて東宮は立ち上がるとドアに向かう。
「すずめさん、早くいらっしゃい」
「は、はいぃ」
ドタバタとふたりが出て行くと、あとに残ったメンバーは誰も口を開くことも無く、部屋はシーンと静まり返った。
そして、10秒ほど経ってから、静寂の中、葉子が立ち上がると無言でドアの前に行き、10センチほどの隙間を開いた。


パシパシパシッ!!!

《・・・何を考えて・・・》

興奮しているようで先ほどより、声が大きく、会話も聞き取りやすくなっている。
何やら叩くような音も聞こえる。

《い、いた・・・だ、駄目でしたかぁ・・・あ・・・痛い・・・》

《当たり前・・・もっと・・・例え・・・クラブ活動や・・・成績・・・恋愛話・・・》

パシッ!

《クラブですかぁ・・・私、こんなの考えるのは苦手・・・痛・・・わかりました、わかりましたからぁ・・・》

《・・・とにかく・・・4時過ぎまで何とか・・・4時半には・・・寮にお戻りになると聞き・・・なさい》


それからまた声がしなくなったので、葉子は静かにドアを閉じる。
ふと気がつくと、部屋中のメンバーが全員、ドアの付近まで寄ってきて聞き耳をたてていた。
葉子がドアを閉めるのを見て、全員、無言でそれぞれの席に戻っていく。
「それにしても、葉子さん。あの二人、誰かを待つために時間を引き延ばしているようですが。誰だかわかりますか?」
「さあ。想像ならつきます」
「流石は切れ者の葉子さん。誰ですか?」
その言葉に全員が耳を傾ける。
「実は先日、バスケットボール部の練習試合がありまして…」
そこに二人がドアを開けて帰ってきた。
「おほほほ、度々失礼いたしました」
羽扇子を口に当てながら会釈する。
羽扇子が少し歪んでいた。
すずめも愛想笑いをしながら席につく。
すずめの額がなぜか赤くなっている。
ん〜、こほん、と軽く咳をして、貴子は東宮に話を振って見る。
「何か話がありますか?東宮さん」
「!!…ええ、すずめさんが話があるそうなの。そうですね?」
さきほどと同じようにすずめに話を振る東宮。
「えっ?」
ゴンッ!
「いたっ。は、はい。実は皆さんにお話したいことがありましてぇ…」
東宮が本当に才女と云われているのか、貴子にも疑わしくなってきた。
貴子の横に座っている葉子が小さな声でぼそぼそと云うのが聞こえる。
「…まずいです、会長。なんだか楽しくなってきました」
すずめがあたふたとしながら話し出す。
「あのぉ、その…学業成績をアップさせるのではないかという事案を発見いたしましてぇ」
「ほぅ?」
貴子がぐっと身を乗り出す。
「実は最近、私が発見したことなのですが、あるスポーツをしている部が著しく勉学の成績が良いのです」
それを聞いて、横に座っている東宮も驚いたように目を見開いてすずめを見る。
どうやら東宮にも初耳だったようである。
「どういうことでしょうか?」
「当校のとある体育会系のクラブなのですが、今年そこに所属している3年生部員の国立大の合格率が100%なのですぅ」
「それは凄い!」
部屋中のメンバー全員がグッと身を乗り出す。
ここにいるメンバー全員がそれぞれの学校の生徒会の役員である。
例え、今年度卒業とは云っても来年度以降に生かすことができる有益情報は聞き逃せない。
「すずめさん、私もそれは知りませんでしたよ!」
東宮も驚いている。
「はい。これは昨日、私が各クラブの生徒の進路状況の書類を纏めているときに気がついたものでぇ、
一箇所、部員進学率100%という数字がついているクラブに気がついたものですぅ」
「それで、遠井さん。その部は何ですか?」
貴子が先を促す。
「皆さんはセパタクローという球技をご存知ですかぁ?」
「ゼパタクロー?…さあ、知りません。恥ずかしながら聞いたことも無いです」
他のメンバーも首を振る。
「そうですかぁ。東南アジアでは割とメジャーなスポーツなのですが、日本では知名度がほとんど無いんです。
どのようなスポーツかというと足のみをつかうバレーボールというと近いかも知れませんねぇ」
「なるほど。変わったスポーツですのね。遠井さんは御経験が?」
「いいえ。私も昨日、初めて知ってネットで調べただけでしてぇ」
「それで、その球技には何か特別な作用があるのでしょうか?例えば、脳を活性化させるとか、
精神のリフレッシュ効果が高いとか」
「それは分かりませんねぇ。何しろ昨日の今日なのでぇ。ネットにもそのような効果は書いていませんでしたしぃ。
これから調べ始めようとしていたので、時間がかかるかも知れませんねぇ」
「そうですか。なんにしろ興味深い事案ですわね」
「そのような部が我が校にあったのですか。知りませんでした」
東宮がすずめに訊ねる。
「お嬢さまが知らなかったのも仕方ありません。同好会でしたからぁ」
「・・・同好会?」
「はい!元々は三年前にとあるひとりのマイナースポーツオタクの生徒が入学したときに始めた同好会なんですねぇ」
「・・・・・・ほほぅ」
「ところがマイナーすぎて部員が全く集まらない。
部員がひとりだけなので、同好会から格上げされず、試合もできず、練習場所も無い。
そう云うわけで活動実績がまったくゼロ。当人も始めは一所懸命に勧誘活動を続けていたけれど
2年生になった頃にはすっかり諦めて、同好会はほったらかし。
その鬱憤のはけ口を勉強にぶつけて、休み時間も参考書を開いているほどに勉強にのめり込み!
じつはその人は今年の私のクラスのクラスメイトでしてぇ。
ついたあだ名が『ガリ勉さん』……」

ゴンゴンガンッッ!!ゴンッ!ガンッ!!

「イタッ!!痛いっ痛っ!!」
悲鳴を上げるすずめ。涙目で東宮をみるとそこには般若のような顔。
「・・・・・・アナタ、イッペンシンデミル?」
「ええっ!?何故ですかぁ!?これ、駄目なんですかぁ!?」
すずめが救いを求めるような目で貴子を見る。
貴子は無言で首を振る。
慌てて、周りを見回し他の人たちの顔を見る。
皆、無言で一斉に目をそらす。
視線を東宮に戻す。鬼の形相。
「それでは議題も無いようですので、本日はこれで終了ということで」
すずめの耳元で般若が囁く。
「ハヤクツギ、イキナサイ」
「えっとえっと、恋愛話とか……ハイッ!ハイッ!」
「何でしょうか?聖M学園生徒会の遠井さん」
「私、学生を勉強に集中させるシステムというものを考えましてぇ」
「…それは議題ですか?」
「はい、勿論ですっ。命をかけてます」
「よくわかりませんが、お聞きしましょう」
「えっとぉ、青春真っ只中の女子高生は、色々と考えることも多いですよねぇ。アレもコレもと煩悩がいっぱい。
それらを抑えることが出来れば勉強にも身が入るのではと」
「…?おっしゃってる意味がよくわかりませんが?」
「あれやこれやの煩悩や欲望を纏めて惹きつける対象が学校内にあれば良いのではないかと。
ついでに性欲や恋愛の対象にもなれば不純異性交遊に走ることも無く、みんな喜んで学校に来る。
などと考えて見たのですが…」
「・・・・・・それで具体的にはどのようなことを?」
「そうですねぇ。生徒たちの欲望の受け皿というか防波堤の役割を担う人が必要でしょう。そういう役目の人を作らなければいけません。
……エルダーのお姉さまはお元気ですか?」

ガゴォォオン!!!

すずめが後頭部を押さえて転げまわっている。
その横で、鬼の目をした東宮が、荒い息をして立っていた。
手にした羽扇子が折れ曲がっている。
東宮が転げまわっているすずめの首根っこを掴んで、グイッと引き寄せる。
「よりによってそれですか。瑞穂さまを・・・」
「だから無理だって云ったじゃありませんかぁ。私、こんなの考えるの苦手だって。他の人を連れてきたら良かったんですよぅ」
「・・・・・・連れて来れるわけ無いでしょう」
「お嬢さまの煩悩を満たすお手伝いは私も勘弁してほしいですぅ」
ブチンッ!
変な音がしたかと思うと東宮が高笑いを始める。
「ヲホホホホッ」
そして、すずめをズルズルと引き摺ってドアのほうへ歩き始めた。
「貴子さん、少しお手洗いにいって来ます」
「は、はい。ど、どうぞ…」
(・・・・・・才女?)
「すずめさん。ちょっと行ってきて欲しい所がありますの」
「えっ?化粧室ではないのですかぁ?」
東宮がニッコリ笑う。
「あの世ですよ」
「ひぃぃ」
「ほら、そこの窓を開けて30センチほど外に出れば直ぐにいけますから」
「いやぁぁ」
とてもクリスチャン学校の生徒とは思えない会話である。
嫌がるすずめを引き摺って東宮がドアの前まで来たとき、コンコンと誰かが廊下からドアをノックした。
ん?と皆がドアの方に注視する。
「どうぞ」
貴子がそう返事すると、ガラッとドアを開けて入ってきたのはこの学院のエルダーシスター、瑞穂だった。
「失礼します。皆様」
「お、お姉さま。どうかなさったのですか?」
貴子が驚いて訊ねる。
瑞穂は生徒会役員ではないので、ここに現れる予定は一切無かった。
勿論、そんな用事もあるはずが無い。
瑞穂は今日、圭と奏に誘われて演劇部の部長引継ぎ行事を見学していた。
「用事が終わったので寮に帰る前に貴子さんに挨拶しようと生徒会室に行ったら、まだ会議室にいると聞いたもので。
東宮会長もいらっしゃると君枝さんに聞きましたのでご挨拶をしにきました」
それを聞いて目を輝かせて喜ぶ東宮。
掴んでいたすずめの襟首を放り出して瑞穂に挨拶する。
「瑞穂さま、お久しぶりです」
「ごきげんよう、東宮葉月さん」
S校とH校のメンバーたちは瑞穂を見るのは初めて。
皆、ポカ〜ンと呆けたように瑞穂を見ている。
「瑞穂さんは東宮さんをご存知だったのですか?」
「先日、バスケ部の練習試合のときにお姉さまが応援に行かれたそうです。そのお陰で勝つことが出来たと
もっぱらの評判です」
貴子の質問に葉子が答える。
「そうですか。では、そのときにお知り合いになったのですね」
「いいえ!」
それには、東宮自身が嬉しそうに否定した。
「それより以前に、瑞穂さまにお会いしたのです。私が難儀している所を助けてくださった恩人です」
「そんな大袈裟ですよ」
「助けた?」
「はい。私をこう、抱きかかえてくれたのです」
「ええっ!?」
貴子も葉子も驚いている。
「いや、間違いではありませんが内容を端折りすぎですよ、東宮会長」
「どうか私のことは葉月と御呼びください」
「そうですか。では葉月さんと御呼びしますね」
もう完全に独走モードの東宮。
床に突き飛ばされたすずめが頭をさすりながら起き上がり、驚いたように瑞穂を見ている。
すずめも瑞穂を見るのは初めてである。
「この人が恵泉のエルダーシスター…。なるほどぉ…」
周りをみると他のメンバーたちも呆けている。
「流石はお嬢さまの愛欲の塔・・・」

バシコーンッ!!!

おでこを強打されてすずめが仰け反る。
東宮が持っていた羽扇子が半分に折れている。
「あ、え、えっと、貴女は?」
イタタッ…と額をさすりながらすずめが起き上がる。
「大丈夫ですか?」
「はい。私、庶民の生まれですのでぇ、少し口が軽いというか一言余分というかぁ…」
「・・・・・・そ、そうですか」
「まあ、小さい頃からなのでぇもう慣れております。私はお嬢さま…っと、東宮葉月の学校での世話係の…」
「違うでしょ!役員でしょ!」
「そうでしたぁ。兼、生徒会書記の遠井すずめと申します。初めまして、防波堤の君・・・」

ゴゴンッ!!!

すずめが後頭部を押さえてのたうっている。
はあはあ、と肩で大きく息をしながら拳を握り締めている東宮。
「…あ、東宮さん。帰りにお姉さまの寮に寄っていくつもりだったのでは?」
貴子がそう云うと、東宮が驚いた顔で答える。
「え、ええ。そのつもりでしたが、何故それを?」
「いえ、まあその、ただの勘ですが…。もしかすると、今日ここへ来たメインの目的も」
「ち、違います。瑞穂さまのところへ寄ろうと思ったのはあくまでついで。討論会のついでですわ」
「ツンデレですねぇ」
すずめが東宮の横にふらふらとしながら立ち上がってきた。
「もう復活したのですか。すずめさん、貴女本当に頑丈ですわね」
「これ以上されると頭がなくなりそうですぅ」
「自業自得でしょう」
「葉月さん。私に何か用でしたか?」
瑞穂にそう問われて、顔を真っ赤にしてモジモジする東宮。
「あのお、じつは、その、もうじきバレンタインですので」
それを聞いて貴子が、「しまった、出し抜かれた」という表情をする。
「一足先にお渡ししておこうかと。当日は私は来ることができませんので」
そう云って、カバンから綺麗にラッピングされた小さな包みを取り出した。
「まあ。でも女性の私なんかより、葉月さんにふさわしい男性がいらっしゃるのではありませんか?」
「お嬢さまはやや、男性嫌いの気がありましてぇ」
すずめが横からそう助け舟を出すと、なぜか瑞穂がやや落ち込んだように見えた。
「そ、そうですか…」
「それに、お嬢さまも学園ではバレンタインにチョコを貰う側の人間ですしぃ」
「あの…ご迷惑でしょうか?」
「とんでもありません。喜んで頂戴します。どうも有難うございます」
頬を赤らめて嬉しげな表情で、東宮はチョコの包みを瑞穂に渡す。
それを見てすずめも、ふうやれやれという風に息を吐く。
葉子が小さな声で、貴子に、
「会長。どうします?早めに渡しておいたほうが良いんじゃ有りませんか?」
と云うと貴子は慌てて首を振った。
「な、何で私が」
「ホワイトデーのお返し期待してますよぉ」
すずめがそう云うと、東宮が怖い目でギロリと睨みつける。
「ふふ、そうですね。先の話ですが、もし時間が空くようでしたら何処かに食事に行きましょうか」
その言葉に東宮だけでなく、貴子たちも目を見張る。
「そ、それは」
「デートのお誘いですね?お嬢さま、どうしますかぁ」
「いや、チョコのお返しということで。そんな深く考えなくても」
といっても、既に東宮は妄想モード。幸せの世界に入っている。
貴子は硬直している。
「…これはいけませんね」
そう云うと葉子がなにやらゴソゴソとして、瑞穂のところにやってきてチョコレートを差し出した。
「お姉さま。これは少し早いですが会長からのバレンタインチョコです」
「なっ!?」
絶句する貴子。
「え?貴子さんから?」
差し出されたチョコは特別なラッピングも何もしていないただの板チョコ。学院の食堂で売っているものである。
「はい。当日にはキチンとしたものを会長からお渡しいたしますが、今はとりあえずコレを。まあ、手付けということで」
驚いた瑞穂が貴子を見る。
貴子は絶句して、赤い顔で口をパクパクさせていた。
「手付けって…」
「ホワイトデーのお返し、よろしくお願いします。なんでしたら会長を食事に誘っていただいても結構です」
葉子はそう云うとぺこりと頭を下げた。
貴子が、アッという表情をする。
「そ、そうですか。でしたら貴子さん。もし当日、都合がよければ一緒に食事に行きませんか?」
これを聞いて青くなる東宮。
一瞬にして、瑞穂とのデートがデートでは無くなってしまった。
たんなるお食事会。
だがこれだけでは済まなかった。
「あの、初めまして。宮小路さま」
S校やH校のメンバーたちも、次々に瑞穂に挨拶して、お昼休みに買ってきたプリンやお菓子を瑞穂に渡し始めたのだ。
「どうぞ、これを」
「私のも、とりあえず手付けということで」
「お受け取りください」
次々と差し出されるお菓子を瑞穂も困惑しながらも、受け取らざるを得ない。
お礼を云いながら、どうしたら良いかと頭を悩ませる。
東宮は、すずめの首を絞めながら「何とかなさい」と命令するが、こうなってはどうしようもない。
「無理ですよぉ。皆、瑞穂さんのテンプテーションにかかってしまってますよぉ」
「う〜っ!」
葉子が瑞穂に、
「お姉さま。皆さんへのお返しが大変ですね。どうでしょう、いっそ、お返しは全員で食事会というのは」
「そ、そうね。では、ここにいる全員で食事会ということにしましょうか」
キャ〜!
湧き上がる喚声。
あまりの急展開についていけず、ボーッとみている貴子に葉子が云う。
「と、云うことになりましたが」
「え、ええ。そう」
「…良かったですね、会長」
「えっ!?」
一方、激しく落ち込む東宮の横ですずめが大きくため息を吐く。
「渡すことが出来たのですから良いじゃないですかぁ」
「でも、でも、せっかく、二人きりの食事…」
「どっちにしても、二人きりじゃなかったですよぉ。私も行きますから3人でしたし」

ゴン!

思いっきり足をけられるすずめ。
「いった〜。だって仕方ないじゃないですか〜。せっかくのタダ飯ですし〜」
そう云いながら、ふと、葉子の顔をみる。
クールな表情で、一瞬、唇の端でにやっとしているような気がした。

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〜えぴろーぐ〜
朝、登校してきて下駄箱を開ける瑞穂。
「あっ、また」
そこに入っている山盛りのラブレター。
「あらあ、またなの?他校生からのラブレター。最近、とみに多いわね」
まりやが下駄箱を覗き込んで呆れたように云う。
突っ込まれているラブレターの半分以上が他校の生徒からである。
「まったく、他所の学校まで来て入れていくなんてよくするわね。いよいよ瑞穂ちゃんの人気も全国区になり始めたわね。
「ううっ」
「あたしに無断で女の子との食事会の約束をするし、プレイガール?ぶりも板についてきたってとこよね」
「うううっ」
盛大に落ち込む瑞穂だった。

ちなみに聖Mで発足した恵泉エルダーファンクラブに先日、S校とH校も支部として加わり、順調に発展を続けているという噂である。

 終わり

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