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『high jinks』 by 「471 ◆471.Pt54hU」氏

『make a racket』に戻る。


まりや誕生日記念SS

 high jinks

 紫苑エンド後、5/13のmake a racketの続編になります。
 その辺を踏まえてるとより楽しめるかなー、と。楽しめるといいなあ……。

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 五月末日夜、鏑木邸──

 瑞穂は自室で、とある写真集を鑑賞していた。

『鏑木瑞穂 シークレット写真集 ロリィタ編』

 言わずと知れた、十二日の瑞穂の誕生日に強制的に行われたファッションショーの時の写真集である。
 瑞穂はここ数日、それを見ては落ち込むという事を繰り返している。そして、何故こんな事になったのか考えていた。
 考えるだけなら、いちいち写真集を開く必要は無い。無いのだが、どうしても気になって見てしまうのだ。何故だろう。
 その写真が撮られたショーの時、状況から来るプレッシャーの為か瑞穂の精神状態は若干不安定で、それ故に普段見せる事の無い表情をした写真が結構あった。
 そこに写っているのが自分自身である事は間違いないと言うのに、それでも別人、と言うか、自分と同じ顔の女の子に見えてくるのだ。
「これなんか、すごく色っぽい顔してるよなあ……何か変な気分になりそう……」
 自分の写真集を見ていて、下半身をちょっと反応させちゃったりしているのは絶対に秘密である。


 閑話休題──
 思い起こしてみれば、プレゼントの中身、会場の設営、写真集の発行と、全てにおいて手際が良すぎた。怪しい事この上ない。
 そう考えた瑞穂が少し探りを入れてみると、すぐに一人の女性の名前が浮かび上がってきた。
 御門まりや。
 予想はしていた。と言うか予想通りだった。こんな事を画策するのは、あのまりや以外には考えられない。
 もっとも、プレゼントに関しては何の打ち合わせも無しに、仲間内はもとより、驚くべき事に使用人たちまでもが最初から同じだった。当日、まりやはそれを楓に相談された事で計画を思い付き、楓を仲間に引き入れて実行した、と言うのだ。
「まったく、まりやもまりやだけど、楓さんも酷いよね……とりあえず、先にまりやの方を何とかしようかな」
 まりやの誕生日が六月八日と近付いている事で、先にまりやに対して、何かしら仕掛けてやろうと決意する瑞穂であった。

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「メイド服、でございますか?」
 楓が怪訝そうな顔で瑞穂に尋ね返す。
「まりやの誕生日にプレゼントしようと思って」
 瑞穂は色々と悩んだ挙句、楓に言えばすぐに用立てる事が出来るだろうと言う事で、そのように決めた。
 この前の誕生日にゴスロリ服を着せられたお返しに、今度はまりやにメイド服を着せてやろうと言うのである。
 もちろん、これは冗談なので、本命のプレゼントは別に用意するつもりではある。
「かしこまりました。それでは、七日の夜までに用意出来ていればよろしいですか?」
「うん。楓さん、まりやのサイズは……知ってたよね」
「存じ上げております」
「それじゃ、よろしくね、楓さん」
 瑞穂はそう言って、自分の部屋へと帰っていった。が、もっと慎重に行動すべきだったのだ。
 そのやり取りの一部始終を、物陰からずっと見詰めていた影があった。
 瑞穂が楓のもとを立ち去った後、その影が楓に近付いていった事など、瑞穂は知る由も無かった。


「さて、どうしようかな」
 冗談で渡すプレゼントはメイド服で良いとして、本命として贈るプレゼントを探さなければならない。
 部屋に閉じこもって考えていても埒が明かないので、とりあえず繁華街にある百貨店に来た。
 紫苑とは当日までお互いのプレゼントは内緒にすると決めたので、その間は別行動をとる事にしている。だから今日は瑞穂一人だ。
 瑞穂が一人で街を歩くと、誰かと一緒にいるときに比べて、何故か男に声を掛けられる回数が圧倒的に多い。だから、本当は一人歩きはなるべく避けたいのだが、今ばかりは仕方がない。
 もっとも、何かあった時の対処は自分一人分でいいし、誰とは言わないがトラブルメーカーがいない分、そういう面では物凄く気楽ではある。

 それはさておき。
「そう言えば確かこの前、新しい腕時計が欲しいとか言ってたっけ……」
 百貨店の中にある時計店の前を通りかかった時、以前まりやがこぼしていた事を思い出す。
瑞穂は時計店に足を踏み入れると、彼女に似合いそうな腕時計を物色し始めた。
「うん、これなんかいいかな。そうだ、それと……」
 ちょっとした悪戯を思い付く。
「すいません、これとこれください。プレゼント用のラッピングをお願いします。……はい、別々で」

「お買い上げありがとうございました」
 時計店を出た瑞穂は、他に用事もないので帰途につく事にした。
「さあて、作戦を考えないとね……」

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 六月八日、鏑木邸──

 今日はまりやの誕生日。
 何故、御門邸ではなく鏑木邸なのかと言うと、まりやの強い希望があったからだ。
 まりや曰く「瑞穂ちゃんちの方が広いし、楓さんの料理おいしいし、他にも色々と楽しそう」なのだそうだ。
 と言うわけで、先日、瑞穂の誕生パーティが行われたのと同じ部屋で、まりやの誕生パーティも行われている。
 メンバーは毎度お馴染み、瑞穂、紫苑、まりや、貴子、奏、由佳里の六人である。


「はい、まりや。僕からのプレゼントだよ」
 そう言って大きめの箱を差し出す。中身は勿論、楓に用立ててもらった鏑木家のメイド服である。
「ありがとう、瑞穂ちゃん……開けてみてもいい?」
「もちろんだよ」
 瑞穂の返事を聞くと、まりやは受け取ったプレゼントを開封した。
 当然、箱の中からは鏑木家仕様のメイド服が出てくる。
「……えっと、瑞穂ちゃん? あたしにこんなものを着せてどうしようと?」
 そう言うまりやの表情は、どこか楽しげだ。
「いやまあ、まりやに似合いそうだったから」
「ふーん。あたしにこれを着て瑞穂ちゃんにお仕えしろ、ってこと?」
「え? いや、僕は別に……」
「でも鏑木家のメイド服を持ってくるって事は、そういう事だよね。つまり、あたしに瑞穂ちゃんの肉奴隷になれと……」
 まりやの肉奴隷という発言を聞き、紫苑がジト目で瑞穂を見る。
「ちょ、いきなり何言いだすの、まりや! ああっ、紫苑、そんなに睨まないでください」

 一方。
「あの、貴子お姉さま……肉奴隷って一体何の事なのですか?」
「え、ええっ? わ、私に聞かれましても……」
「うーん、肉奴隷……肉の奴隷……お肉……ミンチ……わかったっ! きっと毎日ハンバーグを作る係ね! ああ、毎日ハンバーグが食べられるなんて、何て羨ましい……」
 一体何を言っとるんだ、由佳里は。


 それはさておき。
「冗談だよ、本気にしないでよ……本当はこっち」
 瑞穂はそう言うと、ジャケットの内ポケットから細長い箱を取り出し、まりやに手渡す。
「まりやさ、この前、新しい腕時計が欲しいって言ってたでしょ?」
「あっ……そんな事、覚えててくれたんだ……」
「開けてみてよ。きっと気に入ってもらえると思うから」
「うん!」
 まりやは受け取った箱の包装を丁寧に剥がしていき、箱を開けた。
 中にはごっつい腕時計が入っていた。
「どう?」
「どう、って…………瑞穂ちゃん、あんたね」
「ほら、まりやって暴れん坊だからね、そのくらいでちょうどいいと思って」
「だからって何よ、これ!」
「何って、ルミノックスのネイビーシールじゃない」

 ルミノックス社・ネイビーシール。
 アメリカ海軍海空陸戦隊、通称SEALsで制式採用されるべく、MILスペックに基づく過酷な状況下での一年間のテストと六ヶ月の実戦を経て、耐衝撃性、防水性、防圧性、視認性等、あらゆる要求をクリアして完成した腕時計だ。
 まあ要するに、軍の特殊部隊が過酷な任務に用いるような耐久度の高い腕時計だ。

「瑞穂ちゃん……それ、本気で、言ってるの?」
「いや、その……」
 いつもとは違うまりやの雰囲気に飲み込まれてしまう瑞穂。
「……もういい」
「まりや……?」
「もう、いいよ……」
 まりやは俯いて黙りこくってしまった。瑞穂がまりやの顔を覗き込むと、その瞳に光るものが見えた。


 恵泉を卒業して、つまり瑞穂と紫苑が結ばれてからもう一年以上が過ぎているが、まりやが瑞穂への恋慕の情を完全に断ち切る事が出来たかと言えば、決してそう言うわけではない。瑞穂の相手が紫苑だったと言う事も、それを妨げる要因になっていた。
 瑞穂が恵泉に転入するまでは、まりやにとっても紫苑は雲の上の人だった。それが瑞穂の転入を機に等身大の十条紫苑と触れ合えるようになり、それまでは見えなかった一面が見えるようになった。遠巻きに見ていた時は完璧な人間のように思えていた紫苑だが、近しく接するようになってからは多くはないが欠点も見え始め、瑞穂の心が紫苑に傾きつつある事を知りながらも、まだ自分でも太刀打ちできるのではないか、と言う考えが芽生えてしまったのである。
 無論、まりやも瑞穂と紫苑の仲を認めてはいるのだが、二人が結ばれた今でもその事を引き摺り、未だ瑞穂の事を諦めきれないでいる。それどころか心の奥底では、今でも瑞穂の心の中には自分の入れる隙間があるのでは──と言う気持ちが渦巻いているのだ。
 もっとも、まりや自身がそれを自覚していると言う事は無く、仮に指摘したところで間違いなく否定するだろうが。
 そして、以前まりやが何気なく「腕時計を買い換えようかな」と言った事を、そうやって密かに想い続けている瑞穂が覚えていてくれて、プレゼントしてくれると言うのだ。これが嬉しくないはずが無い。紫苑の手前、表立って歓喜を表すような事は出来ないが、恵泉を卒業してからこれまでの間で、まりやにとって一番大きな幸福を感じた瞬間だった事は間違いないだろう。
 だが。
 その想いは踏みにじられてしまった。その気がなかったとは言え、瑞穂自身の手によって。

「あなた」
「瑞穂さん……」
「瑞穂お姉さま……」
 紫苑たちの非難めいた声が瑞穂に向けられる。


「あ……えっと……あの、まりや、その……ごめん」
「……もう、いいから……」
「えと、そうじゃなくて……本当のプレゼントはこっちで……」
 そう言うと、瑞穂は再びジャケットの内ポケットから細長い箱を取り出して、まりやに押し付ける。
「ほら、開けてみて」
「う、うん……」
 まりやは促されるままに、受け取った箱の包装を解いていく。
 そこには、先程のルミノックスとは似ても似つかぬ、ちゃんとした女性用の腕時計が収められていた。
「まりやに似合うと思って買ってきたんだけど……どう、かな」
「……」
「まりや?」
「……これ、貰ってもいいの……?」
「もちろんだよ。まりやへのプレゼントだもの」
「あり、がとう……瑞穂ちゃん……大事にするね……」
 まりやは腕時計を大事そうに両手で握ると、そっと胸に抱きしめた。


「感動のシーンの最中に、申し訳ないのですけれど」
 紫苑の鋭い声が瑞穂に突き刺さる。
「ここ数日、何かこそこそとなさっていましたが……このような事を考えてらしたのですね」
「あの、紫苑……?」
「悪戯が過ぎますわよ、あなた」
「いくら相手がまりやさんだからと言って、これはちょっと……」
「お姉さま、酷いのです」
「お姉さまのいじめっ娘!」
「いや、あの……ごめんなさい」
 針のむしろだった。


「あー、みんな、もういいって。紫苑さまも落ち着いてください。あたしもちょっと吃驚して気が動転してただけですし、瑞穂ちゃんもあたしの事、ちゃんと考えてくれてたんですから。 ……ちょっと悪戯したくなっただけなんだよね、ね、瑞穂ちゃん?」
「え? う、うん」
「はい、だから、この話はこれでおしまい!」
 気を取り直したまりやは、ぱんぱん、と手を叩き、努めて明るく振舞う。
「まあ、この借りは後できっちり耳を揃えて返してもらうから」
 と言って口の端を吊り上げるまりや。
「へ?」
「それじゃ、次は貴子のプレゼントを開けてみようかな!」
「ま、まりや?」
 瑞穂は、何か物凄く不穏当な発言を聞いたような気がしたので、それをまりやに確かめたかったが、悪戯した手前、追求する事は出来なかった。


「うっわ、何これ……エロ過ぎ」
 貴子のプレゼントを見たまりやの第一声がこれだった。
 箱の中に入っていたのは……厳島家のメイド服だ。鏑木家のクラシカルなデザインとは違い、胸元は大きく開き、スカートは股下五センチのマイクロミニ。エプロンは前掛けのみで、スカートの丈よりも短い。太ももを隠してしまわないように、と言う事なのだろうが、これではエプロンとしての役目はほとんど果たさないだろう。いわゆるフレンチメイド服というヤツだ。
「あんたの所のメイドさんってさ、みんなこれ着てるの?」
「ええ、恥ずかしながら。父や兄の趣味なんです……はぁ」
 溜息と共にお家事情を暴露する貴子。もっとも、貴子にとっては既に自らの手で縁を切った家の事であるので、暴露する事に関しては今更どうとも思っていない。ただ、そのような趣味の人間と血が繋がっている事が恥ずかしい、というだけである。
「でも、良く手に入ったわよね。あんた、厳島の家とは絶縁したんでしょ?」
「いくら縁を切っているとは言っても、ツテくらいありますよ。まあ、こんな事を頼むのは恥ずかしかったのですけれど」
 苦笑する貴子。
「まあ、礼は言っておくわ。ありがとね、貴子」
「はいはい、どういたしまして」
「次は……紫苑さまのか」


「へぇ、これは、なかなか……」
 紫苑から貰った箱の中から出てきたのは、十条家の女中服だった。
 和服にエプロンと言う、昔のミルクホールの女給のようなスタイルだ。
「うふふ、それを探すのに、十条の家の中をひっくり返してしまいました」
「このデザインの感じだと、明治末期とか大正くらいの物ですよね」
「ええ。デザインは昔からずっと一緒なんですよ。素材は新しいものも使っていると思いますけれど。サイズも問題ないと思いますわ」
「そうですか……ありがとうございます、紫苑さま」
「いえ、どういたしまして」
「そんじゃ、次は由佳里たちのを、っと」

「ふぅん、なかなかいい出来じゃないの」
 由佳里と奏は、今回も二人一緒にプレゼントである。
 中に入っているのは……変形メイド服だ。
 これは瑞穂の誕生日に贈った服のプロトタイプで、一言で言えば、恵泉女学院の制服をメイドさん仕様にしたような、そんな感じの服である。邪道と言えなくもないが、これはこれでそそる物がある。もちろん、二人の手作りだ。
「そういえばさ、これ、前に失敗したとか言ってたやつじゃない?」
「そうなのですよー。でも、ちゃんと直したから大丈夫なのですよ」
「サイズの方は?」
「完璧ですよ。二度目ですし」
「よっし、よくやった、ゆかりん、奏ちゃん!」
「うぅ、ゆかりんって言わないでくださいよぅ」


 まりやが一通りプレゼントを確認した後、瑞穂がやってきて話しかけてきた。
「ん、なに? 瑞穂ちゃん」
「あの……さっきは本当にゴメン」
「あやまんなくてもいいってば。そりゃ、ちょっとは驚いたけど、もう気にしてないからさ」
「うん、ありがとう」
「最初に出てきた瑞穂ちゃんちのメイド服さ、あれ貰っていいよね。その後のごっついのはいらないけど」
「あ、うん、それは構わないよ。……でも、メイド服なんてどうするの? 何か他のみんなのプレゼントもメイド服だったみたいだけど……」
「それはね……うひひ」
 奇妙な笑い声を漏らしながら、まりやは部屋の入口の方へ向いた。
「楓さん、お願いしまーす!」
「へ? 楓さん?」
 まりやの声に応じて、楓を先頭にメイド服の集団が部屋の中に入って来る。良く見なくても鏑木家のメイド達だ。何やら工具や資材等を手にしている。
 それを見た瑞穂は、その光景に既視感を覚える。まあ本当の所は実際に経験した忘れ難い事なのだが、その後色々あったために、その辺りの記憶はあやふやなのである。
 それはさておき。
 瑞穂はその様子を傍観せざるを得なかった。止めさせたいとは思ったが、まりやが一枚噛んでいる以上、どうせ何を言っても聞き入れては貰えないのだ。だからと言って強硬手段には出られない。
 仕方なく楓たちの動向を見守っていると、そこには一月ほど前に見た光景が再現されつつあった。
 ああっ、やっぱり──そうだ、逃げないと!
 今更そんな事に気が付く瑞穂。だが、そう思った時にはもう手遅れだった。いつの間にか忍び寄って来ていた紫苑と貴子に両腕を拘束されていたのである。筋力の差を考えると逃れる事は容易だが、まさか力ずくで振りほどくわけにもいかない。
 そうしているうちに次々と資材が運び入れられ、見る見るうちに更衣室が完成してしまった。

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「さて瑞穂ちゃん。これからどうすれば良いか……分かるわよね」
 拘束された瑞穂の前にまりやが立ちはだかる。
「な……何をするのかな?」
「もう、とぼけちゃって。それともなーに? あたしに言わせたいの?」
「そういうわけじゃ……」
「瑞穂ちゃんのメイド姿が見たーい! んじゃ、準備の方よろしくね♪」
「ちょっと、まだ了解したわけじゃ……」
「ああ、瑞穂ちゃんのメイド姿を見ないと、さっき苛められた時の心の傷はいつまでたっても癒えないわ〜」
「な、何それ、ズルイ!」
「借りはちゃんと返してもらう、って言ったでしょ? まあ、誕生日プレゼントって事でさ」
「ぷ、プレゼントなら、ちゃんと腕時計をあげたじゃない」
「ああ、あれは悪質な悪戯のお詫びの品ね」
「そ、そんな……」
 と言うわけで、更衣室に入る事になってしまった瑞穂。いつもまりやにされている事を考えるとそこまで付き合ってやる必要はないのだが、そんな事が全く思い浮かばないあたりは、瑞穂らしい。
「瑞穂様、これを」
 楓は更衣室に入ろうとする瑞穂を呼び止め、銀色のアタッシュケースを手渡した。
「これ……胸パッド、だよね……」
「良くお分かりになられましたね。さすがは瑞穂様です」
 瑞穂は、そりゃ分かりますって、と思いはしたが、口に出すのは止めておいた。言っても無駄だから。
「それじゃ、瑞穂ちゃんちのやつからお願いねー!」
 背中にまりやのリクエストを受けながら、瑞穂は更衣室の中に消えていった。


 数分後。
「うわぁ、瑞穂ちゃん、かわいー!」
 鏑木家のクラシックなメイド服を身に纏った瑞穂が、優雅に、そして可憐に登場した。
 服のサイズもぴったりだった。そう、ぴったりなのである。まりやのサイズに合わせていたはずなのに。


「楓さん!」
「何でございましょうか、瑞穂様」
「なんでこれ、僕のサイズにぴったり……って、何写真撮ってるの!」
 楓は一眼レフを構えていた。
「はい、まりやさんに仰せつかりました。本日の主賓で、瑞穂様のご親友でもあるまりやさんのお頼みとあらば、お断りするわけにもまいりませんでしたので、やむなく」
 そう言った楓の顔には、これ以上は無いと言うほどの会心の笑みが浮かんでいた。
「う、嘘だ、その顔は絶対嘘だ!」
「往生際が悪いですわよ、あなた」
「紫苑!? ……そうか、紫苑が」
 瑞穂は、楓にメイド服を頼んだ事を紫苑に知られ、裏で紫苑が動いていたのだと言う事に思い至った。
 自分以外は全てグルだったのだ──そう考えれば不審に思った点にも納得がいく。
 まりやの誕生パーティなのに、会場を無理矢理鏑木邸にされた事。
 プレゼントが皆揃ってメイド服だった事。
 貴子が縁を切ったはずの実家に頼んでまでメイド服を手に入れてきた事。
 紫苑や由佳里の、服のサイズに関する発言。
 まりやに仕掛けた悪戯も、余計な事をして付け入る口実を与えてしまっただけだったのだ。墓穴を掘ったとはこの事だ。

 はめられた──
 と、今更気が付いたところで、手遅れもいいところである。もう諦めるしかないのだ。
「さ、瑞穂ちゃん。ちゃんとポーズとってね♪」

 かくして、鏑木瑞穂ひとりファッションショーが始まったのであった。
「他にも、うちからいっぱい服を持ってきてるからね。全部着て貰うよ、瑞穂ちゃん!」
 その宴は夜通し続いたと言う──

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 後日、鏑木邸──

 瑞穂は自室で、とある写真集を鑑賞していた。

『鏑木瑞穂 シークレット写真集 メイド編』

 もちろん、まりやの誕生パーティの際に、強制的に行われたショーの写真集である。
 今回はいつのもメンバーと、ショーに関わった楓以下数人のメイドにしか配られていないので、レア度は絶大だ。

 瑞穂は、この写真集を貰ってから、夜な夜な写真集を眺めながら、何故こうなったかを考えていた。
 反省するだけなら、いちいち写真集を開く必要は無い。無いのだが、どうしても気になって見てしまうのだ。何故だろう。
 その写真が撮られたショーの時、一杯食わされたショックのためか、瑞穂の精神状態はかなり不安定で、それ故に普段見せる事の無い表情をした写真が結構あった。と言うか、今回はほとんどがそうだった。
 そこに写っているのが自分自身である事は間違いないと言うのに、やっぱり別人、と言うか、自分と同じ顔の女の子にしか見えないのだ。
 瑞穂はうっとりとしてため息を吐きながら、しなやかな指先で写真をなぞっていく。
「これなんか、格好も表情もすごくいやらしい……はぁ……」
 自分の写真集を見ていて、下半身をバキバキに反応させちゃったりしているのは絶対に秘密である。


 その時、部屋に紫苑が入って来た。
「あなた、もうお休みになられませんか?」
「し、紫苑!?」
 瑞穂は慌てて写真集を閉じると、意味もなく立ち上がり、写真集を後ろ手に隠す。
 エロ本を読んでいるのを見られた中学生じゃあるまいし、堂々としていれば良いものを、瑞穂は何となく後ろめたい事をしているような気分になっていた。そのため、間抜けな事に自分の下半身がどのような状態になっているのかをすっかり失念し、立ち上がったりしてしまったのである。
「へ、部屋に入る時はノックくらい……」
「あら、ちゃんと致しましたわよ? でも返事がありませんでしたから。それで、いま何をお隠しになられたのですか?」
 紫苑はそう言って素早く瑞穂の横に回り込むと、隠されたものを覗き込む。
「まあ、この間の写真集をご覧になっていたのですか」
 視線を本から瑞穂に戻した紫苑が、ふと視線を落とすとそこには。
「…………あなた。それは、何ですか」
「へ? それ、って……」
 瑞穂は紫苑の視線を追っていく。その先にあるものは──
「あ……」
「旦那様が変態の道に進むのを、黙って見過ごすわけにはまいりませんわ!」
 瑞穂は寝室へ引き摺られていった。

 翌朝。
 瑞穂は干からびた挙句、腰が抜けて立てなくなっている姿を楓に発見されてしまうのであった。
「うぅ、僕は何も悪くないのに……」

 おしまい

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# いじょ。

# うはwwww瑞穂の誕生日素で思いっきり間違えたwwwwっうぇ

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